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児童文学の旅
クーパー&ランサム聖地巡礼記(1)

ウェールズの地図

はじめに

今回の「クーパーのウェールズ」の聖地巡礼に関して、詳細な情報を提供してくださった飛蔭さんに、心からのお礼を申し上げます。

「闇の戦い」ファンサイト「solstice light」に行きたい方は右のしるしをクリック!


「闇の闘い」同盟


行くのは四たり

<闇>の寄せ手が攻める時
六たりの者これを押し返す
輪より三たり、道より三たり
木、青銅、鉄、水、火、石、
五たりは戻る 進むはひとり
-----スーザン・クーパー作「光の六つのしるし」より

三たり B&Bで朝食をとる同行の三たり

私が スーザン・クーパー作の「闇の戦い」シリーズを読んだのは2003年初夏のことだった。 そして、読み終えたとたん---いや、正確には、読んでいる最中から、と言うべきだろう---「ウェールズに行きたい」という衝動に襲われた。 ほとんど同時期に同シリーズを読んだ友人ゆきみ(=ランサマイト名は「つぶれたクリームパン」)さんにその気持ちを打ち明けると、なんと彼女も同じことを思っていた。
「それにね、コニストンにもまた行きたいの」
おおっ、それじゃあウェールズとコニストン、両方一緒に行きましょう!
今度こそカンチェンジュンガに登るぞっ!

でも、そのときにはすでに、 その夏の目的地はマダガスカルと決まっており、 航空券の手配も終わっていたので、 行くのは次の年の夏ということに。 レンタカーだから、4人で行くのがいちばん経済的ね。ゆっくり仲間を探しましょう。 誰に声をかける?

「伝書バト」を読む岬ちゃん 早朝のパリ・シャルル・ドゴール空港にて
「ツバメ号と伝書バト」を読みふける岬ちゃん

まずは長年の「闇の戦い」ファンであるTitmouse(またの名は「うさぎしちゅう」)さん。なにしろ、私たちがこのシリーズを読んだのは、彼女の影響なのだから、いわば私たちにとって「師匠」のような存在なのである。

予想通り、Titmouseさんは一発快諾してくれた。 あと1人は誰にしよう、、、と悩む間もなく、 意外なところに手を挙げる人がいた。 Titmouseさんのお嬢さんである岬ちゃん(小6)である。
「あの子はまだランサム読んでないんだけれど、これを機会に、せめて湖ものだけは読ませなくては」
と Titmouseさんは大張り切りである。
なるほど、全人類ランサマイト化計画の一環としても、 これは素晴らしい企画だと言えよう。

こうして旅の仲間は決まったのだった。



ウェールズへ

「もし練習するのがいやになったら、イングランド人のもうひとつのやり方を使えばいい。"LL"を"スル"みたいに言うんだ」
-----スーザン・クーパー作「灰色の王」より

7月29日、 エールフランスの夜便で成田を出発。パリを経由し、マンチェスターに着いたのは翌30日の朝8時過ぎだった。空港前のHertzに直行し、車を借りる。手続きになんだかんだと時間がかかり、小雨模様の中を出発したのは9時半頃だっただろうか。 出発したとたん、方向を間違え、ガソリンスタンドで道を確かめ、Uターン。

昼食をとったパブ

朝からろくにものを食べていない私たちは、間もなく、猛烈な腹へらしになった。 チェスターで高速を降り、渋滞に巻き込まれながら、町はずれの商店街にたどりついたのは11時ちょっと前。ここで ATMを見つけてキャッシングし、ようやく自分のお金を手に入れる。 空港のATMが故障していたので、今までは 一文無しだったのである。

いかにもというムード一杯のパブがあったので、 11時の開店を待って飛び込み、 「ホットミールは食べられますか」と訊くと、 「うちではやっていない。この先にある別の店に行け」と言われる。

教わった店に行き、 シーザーサラダ、ジャケットポテト、ソーセージ&マッシュ、クラブハウスサンドをとり、 みんなで分け合って食べた。 思えばこれが、その後毎日続くパブ飯大行進の始まりだったのだが、まだこのときは空腹を満たすことができる喜びでいっぱいの私であった。

トーマス

スーパーで水とチョコレート、クッキーを買って再び出発。

ほどなく、英語だけで書かれていた道路標識が、 英語とウェールズ語の2本立てに変わった。 しかも、最初に書いてあるのが見慣れないウェールズ語のほうなのだから、 運転手のゆきみさんと、 ナビゲーターを務めるTitmouseさんにとって、 かなり厳しい状況である。 一方、 私はというと、後部座席で岬ちゃんと二人、 のんびりくつろいでいる。 今回、私は航空券手配係---要するに、いつも航空券を頼んでいる旅行会社に、いつものように電話を入れただけのこと---だったので、 もう仕事は終わっているのだ。 言い出しっぺなのに、一番楽してる。

やがて、空が明るくなり、雨が上がった。それと同時に、周囲がだんだん田舎っぽい雰囲気になってきた。車窓から吹き込む風がすがすがしい。 ほどなく、やけにこぎれいな町が見えてきた。 "Llangollen"---スランゴスレンである。 ハンドルを握るゆきみさんが声を上げた。
「トーマスだわ!」
見ると、おお、ほんとうに「機関車トーマス」がいるではないか!

ブラァンがいる

私たちはここでひと休みすることにした。 トーマスも魅力だったが、それ以上に私たちの心を惹きつけたのは"Welsh Ice Cream"という看板だった。 スランゴスレンはしかし、私たちだけにとって魅力的な町であるわけではなかった。パーキングは、この山間のリゾート地に魅了された人々の車でごった返していて、車を停めるスペースを見つけるまで、 何周もしなくてはならなかったのである。

待ちこがれた アイスクリームのフレーバーは、悩んだ末、ハチミツを選んでみた。なんとなく、名物っぽい感じがしたからだ。甘いアイスクリームは実に滑りが良く、つるりとお腹におさまった。

トーマスの写真を撮り終えてから、町をうろつく。 道路標識に"Bran"という単語があるのに感動し、訳もわからないまま写真に撮り、 インフォメーション内のブックショップのラインナップが きわめてアーサー王的であることにまたまた感動し、 これまた写真に撮る。

いよいよウェールズに入ったんだぞ!という気分が盛り上がってきたところで、再び出発。

* * * * * * * * * *

:この標識の説明は
こちら




車酔いのくすり

リースが車を内陸へ、山々のほうへと向けると、ほとんどすぐにウィルは閉じこめられたような、威嚇されるような、初めての異様な感覚を味わった。小さな道はそのあたりではせばまり、みどりの壁のようにぼうっと浮かぶ生け垣と高い草土手が両側にあるせいで、トンネルのようになっていた。
-----スーザン・クーパー作「灰色の王」より

山間のリゾート地スランゴスレン

スランゴスレンから先、 車窓から見える景色はさらに緑濃くなっていった。 しばらくすると、左手前方に山々が見えてきた。 その中の一番高い峰が、妙に気になる。 ただ高いだけでなく、なんとなく威厳があって、「アーサーの座」にふさわしいような感じがするのである。
ねえっ、あれが灰色の王、カーデル・イドリスってことはないかしら?
「私も気にしてたの。方角としては合っているんだけれど、どうなのかしら」
と、助手席で地図を手にしたTitmouseさんが言う。

そして、私たちはついに海辺に出た。 西日に照らされた海はどこか幻想的で、 今にも 「失せし国」が現れてきそうである。 45度ぐらいありそうな急斜面がそのまま海までなだれこむ。 そこにへばりついた道をひたすら走る。 急カーブが続き、車は左右に振られる。

スランゴスレンのインフォメには
アーサー王関連本がいっぱい

ちょっと嫌な予感がした。酔いかけているのかもしれない。 それに、時差ぼけでだんだん眠くなってきた。 隣りでは岬ちゃんがすでに寝息を立てている。 そう、 寝てしまえば酔うこともないのだ。 でも、眠ったら、前で頑張っている2人に申し訳ないし、何か素晴らしいものを見逃すかもしれないではないか。

眠りもせず、酔いもせずにいるには、テンションを高く保つしかない。 そこで、私は歌い始めた。 ほんとうなら「灰色の王」にふさわしい歌、つまりウェールズの歌を歌いたいところだが、 そんな歌は何一つ知らない。 せめてイギリスの歌でもと思ったところで、 メロディーはわかっても歌詞を覚えていない。 (「スペインの淑女」さえも。)  子供の頃、毎日のように口ずさんでいた童謡ですら、 半分も歌わないうちに、歌詞がわからなくなる。 年をとるというのは悲しいことだ。

道路標識はウェールズ語が先

一生懸命考えて、 ドライブにふさわしい歌を、ようやく思いついた。
♪中央ふり〜うぇ〜えい
前の2人は大爆笑。こんな昼日中から、 ボケかましてゴメンね〜

その後もめげずに、思いつく限りの曲を歌い続け(前の2人にはさぞかし迷惑だったことだろう)、 なんとか酔わずに過ごした。

そうこうしているうちに、小さな集落を通り過ぎた。
あらっ、今のがタウィン?
ちょうどバス停があり、停車できるスペースがあったので、車を降り、現在地を確認する。 タウィンはまだ先だった。 爽やかな外の空気を胸一杯吸い込み、 元気を回復する。

ほどなく私たちは左折し、海岸沿いの道を後にし、内陸に向かった。車1台が通るのがやっとという狭い道である。 両側の密生した木々が、まるでトンネルの壁のように、 きちんと刈り込まれているのが、やけに印象的だった。


鳥岩

「あの岩山の突き出し方は妙だね」
「クライグ・アル・アデーリンかい? あいつは特別な山なんだ。イギリスじゅうで、鵜が内陸に巣を作るのはあそこしかないんだよ」
-----スーザン・クーパー作「灰色の王」より

「そろそろのはずだわ」
Titmouseさんの声がした。
私たちの宿のことである。 鳥岩のすぐそばのB&Bは、 Titmouseさんがネットでさんざん探しまわった末に 探し出した宿で、 行ってみてわかったことだが、これは大ヒットだったのである。

もうすぐのはず・・・。そう思いながら、十分気を付けていたはずなのに、前方に すごい岩が見えてきた。 これは間違いなく鳥岩だ。宿より先に、鳥岩を見つけちゃった!

車を停めて 道端の標識を確認する。
「クライグ・アル・アデーリン」
その脇の立て看板には、 何やら細々と説明が書いてある。

ここには鳥がたくさんいる

まず、ここに生息する鳥の説明。 博物学者にほど遠い 私には、猫に小判、馬の耳に念仏だった。 唯一わかったことは、 「鳥がたくさんいる」・・・ それは読まなくてもわかる。頭上には鳥の鳴き声が響き渡っていて、それはそれは賑やかなのだから。 昔の人が この岩に「鳥岩」と名付けたのは、それ以外の名前が考えられなかったからに違いない。

そしてさらに、 「この反対側から登る道があるが、非常に険しくて危険である」とも書いてあった。ひゃー! イギリス人(正確にはヨーロッパ人全般)というのは日本人に比べて、はるかにたくましくて冒険好きな人種である。その彼らが「険しくて危険」と言うのだから、 険しさと危険の度合いはハンパではないのだろう。 しかも「非常に」という副詞付きなのだ。 どうやら、火と 煙に追われて鳥岩を駆け上ったりするのは、 <古老>ならぬ身の普通の人間には、とうていできることではないらしい。 実を言うと、私は鳥岩に登ってみることを、密かに夢見ていたのだが、これを読んだ瞬間、きれいさっぱり諦めた。

鳥岩とよその人の車(爆)

岩の上を旋回する鳥の姿を、首を痛くして眺め、 鳥の声にじっくり耳を傾けた後、来た道を戻った。 B&Bの看板はすぐ見つかった。 さっき見落としたのが不思議に思えるほどだ。 看板を左折し、本道から離れ、前方にぽつんと建つ 農場がだんだん近づいてくるのを見つめていると、 はるばる日本から、 よくもまあこんなところまでやって来たものだと いう感慨がこみ上げてくる。

4時半、B&B着。ドアベルを鳴らすと、 奥さんが出てきた。若くてとても気さくな感じの人である。 ダブルベッド1つと、シングルベッド2つが置かれた、広々としたファミリールームでひと休みし、 持ってきた「灰色の王」をチェックしたら、道を両側から囲む刈り込まれた生け垣のことが、 さっき車窓から 見たとおりに描写されていた。

ふと見ると、 岬ちゃんとゆきみさんは寝入ってしまっている。 でもまだ6時なのである。 このまま朝まで何も食べないというわけにもいくまいと、Titmouseさんと私は心を鬼にして2人を起こした。 この宿では夕食は出ないので、 奥さんが教えてくれた、隣村のパブまで行かなくてはならない。 疲労困憊のゆきみさんに運転させるのはしのびなかったが、他に運転手がいないのだから、どうしようもない。

パブはおそろしく混んでいた。 おそらく、近隣で開いている食事どころは、ここ1軒だけなのだろう。 「白身魚のフライとフライドポテト(要するにフィッシュ&チップス)」と「牛肉のエール煮込みのパイ皮包み」を4人でつついた。飲み物はレモネード。 アルコール類を取ったら、その場で倒れ込んで寝てしまいそうだ。

宿に帰り、シャワーと洗濯。 シャワーの水圧が異様に低くて、 身体を洗うのに苦労した。 ここでは洗髪できない。 10時就寝。

こんなところまで、よく来たものだ

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