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児童文学の旅
【原点ふたたび】 長い冬休み(2)

12月23日「北極」

今までそれは岬にかくれていたが、岬をまわったとたん、 みんなが同時にそれを見た。
-----27章「救助に」より

コニストンの北岸から眺めたハリ・ハウ
ハリ・ハウ(ゆきみ提供)

時差ぼけで1時過ぎに目を覚ましてから、ずっとうとうとしていた。 7時過ぎ、階段を下りるふゆきの足音を聞いて起き出すと、 すでに暖炉の火は盛大に燃えていた。

朝食はスーザン・ゆきみによるかきたまご(俗称=スクランブルエッグ)。 つけあわせはマッシュルームときぬさやをいためたもの。 トーストと紅茶、ヨーグルト。 朝からこんなに食べて、もうお腹がぱーんぱん!などと言い合っていたら、 どんより曇った空から雪が降り始めた。

雪のちらつく中、9時過ぎ出発。 まずはコニストンに行き、教会を探す。 ランサムとは関係無いが、 この時期に来たからには、クリスマス礼拝は絶対はずせない。 教会はすぐに見つかった。村の真中にあり、 「ジョン・ラスキンの墓はこちら」と立て札が立っていた。 24日のミサは午後6時と11時半、25日は午前9時半と11時ということを確認し、 ガソリンスタンドに寄ってからアンブルサイドへ向かう。

途中の道の脇に小さな池があり、氷が張っていた。 氷の合間を鴨の群れが泳いでいる。 みんな歓声を上げ、車を止めて岸辺に下りた。 試しに 足でつついてみると、ごくごく薄い氷で、簡単に割れてしまった。 スケートができるようになるのは、まだ先のことのようだ。

足でつつくと簡単に割れる氷
氷を足でつつく(ゆきみ提供)

アンブルサイドに着くとインフォメーションに直行し、 ランサマイト用の本2冊---"In search of Swallows&Amazons"と "In the footsteps of the Swallows and Amazons"---を購入。 さらに、思いがけないものも発見した。

それはラムバター。 その名のとおり、ラム(と砂糖)の入ったバターであり、 ここカンバーランドの名物である。 ランサムとは関係無いアイテムであるが、 1977年の初めての旅 に同行してくれた 友人がいたく気に入って、今も懐かしんでいるものなので、 今回は彼女のために、 ぜひとも手に入れたいと思っていたのだ。

さて、いよいよ探検開始。 冬の湖水地方に来たからには、 何をさておいても北極を見つけなければならない。 北極のある公園はすぐに見つかった。 4人ちらばって、草の上をあてどもなく歩く。
「北極っていったいどんなものなの?」
「North Poleって書いてあるプレートがあるんだって」
雪中の北極探検とは最高のシチュエーションである。 しかし、雪の降る中、 わざわざ公園の通路をはずれて、 足元の草を見つめながらうろつきまわる4人の東洋人の女性というのは、 はたから見たらかなり怪しい光景だろう。
「どのくらいの大きさなの?」
「うーん、、、よくわからない」
うろうろしているうちに潅木のあるほうに行ってしまった。
「"In the footsteps"の地図によると、こっちじゃないみたいよ」
「川がある」
「あっ、川に出たら行きすぎよ」
結局、公園の入り口近くに戻る。
「この辺のはずなんだけど・・・まさか ナショナル・トラストと揉めて 撤去されたとか」と焦り始める私。
「岬があるから、なかなか見えなかったって書いてあったわ。だから絶対この辺よ」とゆきみ。 (読んだばかりとはいえ、私よりもよっぽどよくディテールを覚えている!)
「見つけないままじゃあ帰れません!」と叫ぶふゆき。
北極に何の義理も無いマリも「楽しいですね♪」と言いながら、 真剣に探してくれる。 ・・・・・ありがとう、みんな。

雪中行軍
雪中の北極探検(ゆきみ提供)

でもさすがに疲れてきた。お腹も空いてきた。 ふゆきが「インフォメで訊こう」と言い出したので、 車でインフォメに戻り、訊いてみたが、案の定、何も わからなかった。

こうなったら最後の手段だ。
「インターネットカフェはどこですか」
ランサマイト専用掲示板に書きこみすれば、明日までには誰かが 教えてくれるはずだ。

教えてもらったインターネットカフェの場所を確認し、 空きっ腹を抱えてウィンダミアのスーパーへ。 昨日買出しした食料だけでは足りそうもないということが、 今朝わかったからだ。 それに私は昨日、ペミカンを頼むことを忘れてしまっていた。 わざわざコニストンにまで来て、しかも自炊なのに、ペミカンケーキを食べなくてどうする。

混雑したスーパーでの買い物を終えてから、 食事どころを探してリオ(=一般にはボウネスと呼ばれる)に出る。 それにしてもすごい坂だ。この坂を20年以上前、私と友人は土砂降りの雨の中、 サムソナイトのスーツケースを転がしながら登った のだ。若かったあの頃・・・(遠い目)

リオのランサマイトの店にて
ランサム・ファンのご主人と

パブのスープ+ターキーサンドイッチで昼食をすませ、 「このあとは『火星への通信』をした場所に行こう」と 話しながら リオの町を歩いていたら、誰かが「ちょっと来て!」と声をあげた。 何かと思って行くと、 お人形などの小物を売っている店注1 のショーウィンドウの片隅に ランサムの本が並んでいる。 それもハードカバーである。 この店はただの店ではなさそうだ。入ってみよう。

入ってみると、片隅にランサムの本があった。 手にとってわいわいやっていると 店の主人が話しかけてきた。 27日にはTARS(The Arthur Ransome Society= イギリスのアーサー・ランサムのファンクラブ)の集まりがあるのだそうだ。 あらまあ残念、私たちは26日にロンドンに帰るんです、とか話しているうちに、 誰かが「北極の場所を知っているか」と質問した。
「もちろん!」
おおお、とどよめく私たち。 彼の説明によると、私たちがあたりをつけた場所は正しかったようだ。 撤去されたわけでもない。 どうして見つからなかったのだろう?

どこに泊まっているのかと訊かれたので、 胸を張って「Bank Ground」と答えると、 彼はにっこりして「おお! それ以外にないですよね。 泊まるならハリ・ハウでなくちゃ」

今回ゲットしてきたお宝
私のお宝
赤茶の"S&A"はロンドンにて 購入。これ以外に旧版のペーパーバック3 冊も購入。真中はコニストン湖畔で拾った 松ぼっくり。

せっかくなので、ここでRed Foxの新バージョンの"Winter Holiday"を買うことにした。 さらに、旧バージョンがセールで3冊10ポンドになっていたので、 "Peter Duck""Coot Club""Pigeon Post"を購入。 ゆきみは「英語のリスニングの勉強のために」と "Winter Holiday"のカセット注2 を買った。 もしかして彼女、私よりディープかもしれない。

「あのおじさん、すごく嬉しそうだったよね」と言いながら、 夕暮れの道を北極に向かった。 教えてもらった目印の地点に立ち、1人1人が少しずつ離れて湖に向かって歩いて行くと、 ゆきみが「あった!」と声をあげた。 駆け寄ってみたとたん、 なぜ今朝見つけられなかったかがわかった。あのときは雪に埋もれていたのだ。 あれっぽっちの雪に埋もれてしまうほどの、 ほんとにほんとに小さいプレートなのだ。

「比べるものがないと大きさがわからないわ」という声に、4人の足を寄せて 記念撮影する。 さらに、"NP"の手旗信号のポーズでもう一枚。 ほんとなら、 雪の中での記念写真を撮れればよかったのだけれど。

北極はこんなに小さかった
北極(ゆきみ提供)

つくづく周りを眺めてみると、 この北極、実に納得の位置にある。 救援隊からは岬を回らないと見えないし、 岸辺からそう遠くない。 だからこそ、吹雪の中でひっくりかえったDきょうだいが たどり着くことができたのだろう。 (フィクションなのはわかってるんだけどね。)

結局、北極探検に一日を費やしてしまったが、 私の心は満ち足りていた。

本当は夕食はトン汁のはずだったのだが、 私の荷物が到着しないと味噌が手に入らないので、 明日の食べるはずだったチキンの丸焼きに変更。 今夜のスーザン・ふゆきが手際良く仕込んでいく。

チキンが焼きあがったのに、 ゆきみがお風呂からなかなか出てこない。 口々に二階に向かって声をかける。
「ご飯できましたよーー! いったいどうしたの?」
しばらくして、ようやく、ゆきみが下りてきた。
「髪を洗ってたときに、お風呂が水になっちゃったの〜!」
「えーっ! かわいそう!」
ここのお風呂は外国の小さな宿によくある、タンク式である。 だから、私たちは最低15分は間を置いて、 入浴するように気をつけていた。 それなのに、 一番最初のゆきみがそんな目に遭うなんて・・・。 夕食の準備のために、 台所で多少お湯を使ったのがいけなかったの だろうか。

ランサム・ジグゾー・パズル
無駄な努力(ゆきみ提供)

こうして、 ゆきみの「心頭滅却すれば火もまた涼し」の逆バージョン談義を 聞きながらの夕食となった。 チキンのつけあわせは、オーブンで一緒に焼いた 芽キャベツ、ジャガイモ、ニンジン、ニンニク、 バースニップ(アメリカボウフウ。(?_?) 見た目は白いにんじんだが、食感はくわいという、不思議な 野菜) 。 ワインを開け、 デザートにアイスクリームを食べた。 その量にはロジャも満足したことだろう。

夕食後、 戸棚に入っていた 揃っていない ランサム・ジグゾーパズルに、無駄な努力を注いで過ごす。

* * * * *

注1:この店の名前を確認するのを忘れてしまった。 LMSさんによると"Tars Ahoy"という店名らしいが、確実ではないとのこと。 場所はウィンダミアからボウネスに向かって坂を下りる途中の 右側。

注2:(ゆきみからの補足) このカセットの朗読者はGABRIEL WOOLF。 彼自身が原文に手を入れて短くしたものを、 BBCの放送の企画か何かで取り上げて、 最終的にTARSが全巻カセットにしたらしい。 "A contribution from the sale of each cassette goes to the Athur Ransome Society" とある。

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