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児童文学の旅
フラッシングをうろつく

ちょっと長めの前置き

「かかれ。」と、おとうさんがいった。そして、五つの舌が同時に やけどした。スープはぐつぐつ煮えている状態に近かった。
-----「海へ出るつもりじゃなかった」
23章「オランダの午後」より

北欧の旅の帰路、アムステルダムでストップオーバーすることになったとき、脳裏にひらめいたのはフラッシングだった。

オランダの南部・ゼーランド地方の港町フリッシンゲンが 、アーサー・ランサム作「海へ出るつもりじゃなかった」 の子どもたちがたどり着いた港フラッシングであることは、 とうに確認済みである。

フラッシング(フリッシンゲン)付近の地図

実は、前回(92年)のオランダ旅行の際にも、フラッシング行きが頭 をよぎったのだった。しかしその当時は、 ガイドブックに載っていない町に行く勇気がなかった。 また、長らくランサム・サガから遠ざかっていたため、 行ってみたところで、そこで見聞きするものを楽しめる心が 自分に残っているかどうか、 いま一つ自信が持てなかったということもある。

あれから約10年、(他のことはともかく)旅のキャリアだけは十分に 積んできた。 ガイドブックに載っていなくても、電車が通っているのだ。 楽勝、楽勝。 さらに精神状態も万全。 ネットを始めて以来、再びランサムの世界にどっぷり浸っているのだから。 何を見ても楽しめる自信がある。 行ってみよう。

早速「海出る」を再読した。子どもたちみたいにビフテキと野菜スープ、ホットケーキにイチゴアイスクリームを食することができたら最高だ。 熱いスープで舌をやけどするなんてもの一興かも。 でもちょっと時間的には無理だろうな。 今のオランダでは牛乳車を引く犬なんかに出会えないこともわかってる。 木靴は重いから買うつもりはない。(船旅ならいいんだけどね。) それじゃあ、いったいなぜわざわざ行くのだろう? ・・・そこにフラッシングがあるから。  


海の国へ

ノルウェーのベルゲンを10時40分に発った飛行機は定刻12時20分、アムステルダムのスキポール空港に到着した。 手荷物だけなのですぐにオランダ国内旅行態勢に 入れる。 まずはオランダ・ギルダーをキャッシング。 そして空港に隣接する鉄道駅でミデルブルク行きの切符を購入。 窓口の人に「いったんアムステルダム中央駅に出てから乗りかえるのか」と 尋ねたら、13時16分発の直通のInter Cityがあるとのこと。 構内のスーパーで食料と水を買いこみ、余裕をもって車窓の人となった。

久しぶりに見るオランダの風景に心が躍る。 自転車に乗る人々、運河をボートで走る人々、 そして畑には草をはむ牛、馬、羊の群れ。 この国は、バルト諸国や北欧よりも、はるかに生命の喜びに満ちている。

最初は辛うじて下にあった運河が、気付くと線路よりも上にある。 ゼーランド(=海の国)に来たという実感が湧いてくる。

ミデルブルグの運河と小帆船
ミデルブルクの運河

15時30分、ミデルブルクに到着。 この町はオランダ南部随一の美しい町として有名だし、 フラッシングまでは電車でほんの10分。 フラッシングへの足場としては最適のはずだ。

まっすぐ旧市街の観光案内所に向かい、 宿の手配を頼む。 ところが紹介されるのが駅前にある高いホテルばかり。 1泊7000〜8000円程度なのだから、日本の感覚では高くないのだが、 旅行中の私は節約モード。北欧以外でそんな大金は払いたくなかった。 第一、そんなのでよかったら(なにしろ駅前なのだから)わざわざ観光案内所に来なくても、自分で飛びこめば済んだのだ。 「もっと安いところはないのか」としつこく頼んで ようやく見つけてもらったのが、旧市街はずれの1泊5000円の安宿。 10分歩いてチェックインし、 また10分歩いて旧市街の中心に戻ったときは もうすでに5時5分前になっていて、 教会の塔に登ることはできなかった。 くっ、残念。やっぱり素直に高いホテルに行けばよかったかも。

塔には登れなかったものの、ミデルブルクの路地裏散策は十分に楽しかった。 運河に出ると、鬼号のようなヨットがたくさん停泊していた。 操舵室で食事をしている家族の脇を通るときなどは、 横目で思いっきりねっとりした視線を投げかけずに いられない。 いいなあ、こんなふうに 「ほんとうの生活」を送れるなんて。。。


フラッシングにて

水門の水が渦をまきながらあがりだした。 鬼号も持ちあげられて、あちこちにゆれ動きだしたので、ジョンとおとうさんと 水先案内人は、船が岸壁にぶつかるのを防ぐためにはたらきつづけた。
-----22章「外国の港で」より

おとうさんが、大声でさけんだ。「前進!」ロジャがギア・レバーを動かした。「全開!」ロジャが節気弁をひらいた。機関の鼓動がはやくなって、生き生きした調子になり、鬼号は水門を通過して海に出た。
-----23章「オランダの午後」より

翌朝、9時ジャストに駅に到着。 窓口のおじさんに「フリッシンゲン」と言ったら 「片道でいいのか」と訊かれ、 「フリッシンゲンのあと、デルフトに行く」と言うと、 デルフトまでの通し切符をくれた。 今回のオランダの旅では 仏頂面をしている駅員がやたらに多かったが、 このおじさんの感じの良さは特筆ものだった。

9時2分の各駅停車に乗り、 12分にフリッシンゲン到着。 アムス方面行きのInter Cityが毎時26分発であることを確認して、駅を出る。

鬼号のような小帆船の入港
鬼号の入港

前方に水路があった。港と外海を結ぶ水路で、近づいて見ると2本あり、 手前のは幅が狭い。鬼号のような小型船専用だろう。 向こうの水路はかなり幅がある。 港を出入りする船が無いときは水門が閉まっていて、 その上を人や自転車が通れるようになっているので、 とりあえず渡ってみる。

渡った先の港には大きいヨットばかりが停泊していた。 ヨットの目の前には簡易トイレと準備中の売店。 でも、ビフテキが食べられるカフェ(ランサム全集では「喫茶店」 と訳されている!) はいったいどこにあるの? 売店の拡声器からは、鬼号よりもマーゴレッタ号に似つかわしい 音楽ががんがん流れている。 せめて「ようこそフリッシンゲンへ」と書かれた のぼりや垂れ幕があればいいのに。

次は 堤防をよじのぼって海を眺めてみた。 嵐の一夜を耐えた鬼号は、この海を越えてやってきたのだが、 今日の海はあくまでも穏やかである。 朝の日の光のもとで、 静かなきらめきを放っている。

再び水門に戻ると、外海から来る大型船が見えた。 よく見るとその後ろに小帆船がいる。あれはまさに鬼号だ!

鬼号のような小帆船の出港
鬼号の出港

鬼号は水路に入った。船に乗っているのは家族連れ。 ブリジットみたいな小さな女の子もいる。 防舷物を出してじっと待っている。 まもなく水門が開き、 水位がぐんぐん上がり、 鬼号は無事に入港した。

と、今度は、別の小帆船が狭い方の水路を使って 海に出て行こうとしている。 鬼号がイギリスに帰るところも見られるというわけだ。 (本当の鬼号が出港したのは午後で、今は朝だけど、そのへんはまあいいことにする。)

鬼号を見送ったあと、 駅のそばに戻り、今度は駅前の大きな通りを歩いてみた。 しばらくの間、水辺が立ち入り禁止になっていてつまらなかったが、 そのうちにパーキングになったので、そこから入りこんでみる。 税関の建物があり、さらに水辺を求めて行くと、港 があり、大型船があった。 よく見ると"PILOTS"と書いてある。なんとまあ、 これは水先案内船ではないか! 


終わりに

予想以上の収穫に すっかり満足し、私は駅に戻った。

キオスクが開いていた。 恐らく着いたときも開いていたのだろうが、 全く気付かなかった。 フリッシンゲンの航空写真の絵葉書と地図を買い、10時26分発のInter Cityに乗り込んだ。

フラッシングの水先案内船?
これがお宝画像(船腹にPILOTSの文字が!)

すっかり日が高くなった今、 線路沿いの運河にはたくさんの小帆船が出ていて、 私の乗る列車とは反対方向に向かっていた。 みんなロジャお得意の機関を使って。 みんな外海を目指しているのだろう。 みんなフラッシング港のあの水路を出て行く鬼号たち なのだ。

みんな行ってらっしゃい! どうぞ「楽しい航海」をしてきてね。

さっき買った地図をじっくりと眺めてみた。 フリッシンゲンは思いのほか大きい町だった。 ヨットハーバーは水門を渡ったところを、 右方向にずんずん1キロ余り行った先にある。 駅からは片道30分位みておいたほうがよさそうだ。 船を眺めたり、 広場に面した喫茶店を探して食事をしたら半日がかりかもしれない・・・。 でもそれはまたの機会のお楽しみ。 (買った地図をもとにして私が描いたフラッシングの概略図はこちら) (2001年8月)


フリッシンゲンの絵葉書

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