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児童文学の旅
リンドグレーン聖地巡礼記(1)

私が ヴィンメルビーのアストリッド・リンドグレーン・ワールドの存在を 知ったのは、1999年11月、 三瓶恵子さんによるスウェーデン児童文学に関する講演会の折りでした。

それ以来、三瓶さんには一方ならぬお世話になっています。 この場をお借りして心からの感謝を申し上げます。



スウェーデンの朝

でも、この船がまるで畑でもたがやすように進んでいくこの航路が、地球上どこにも類のないものだとは、おそらく船自身知らないだろう。 ひろびろとした内海をわたったり、せまい瀬戸をとおりぬけたり、何百もの緑の胃小島や何千もの灰色の岩礁のそばをとおりすぎ、船はつかれもしらずに進むのだ。 (「わたしたちの島で」より)


8月の朝。 エストニアのタリン発の夜行フェリーで快適な一夜を過ごした私は、 すっきりと目覚めた。 今日からいよいよ西欧。それも超先進国・スウェーデンだと思うと、 なんとなく嬉しい。 東欧も好きだけれど、 我が家に戻ったような気分がするのはやはり西欧に入るときである。

カフェテリアでデニッシュとコーヒーに35エストニア・クローンを払ったら、 1クローンしか残らなかった。我ながら上出来だ。

ストックホルム群島
わたしたちの島
甲板に出て外を眺める。 フェリーは群島の間を縫って走っていた。 小さな島々には家が点在している。 ストックホルムの住人は、夏をこんな別荘で過ごすのかもしれない。 ん? 夏? 島? 別荘? おお、これはまさしく「わたしたちの島で」の世界ではないか!  のっけからリンドグレーンの世界を見ることができるなんて、ちょっと感激である。水平線上の細い線にしか見えなかったエストニアの島々 とはうって変わって、スウェーデンの島々には起伏がある。 深い入り江がある。 入り江の奥に家がある。 エストニアに比べると人口密度が高い感じ、 人の暮らしが見えやすい感じがする。 もし日本から直接来たのだったら、全然違う感想を抱いたことだろうけれど。。。


■旅のアドバイス■

フィンランドのヘルシンキ発のシリヤラインあるいはバルティックラインの夜行フェリーに乗った場合も、朝になって「わたしたちの島」を見ることができます。また、日本からストックホルム直行の場合は、ストックホルム発着のフェリーのツアーがありますから、それに乗れば1日かけて島めぐりをすることができるはず。ストックホルムの観光案内所で訊いてみてください。


船を下りると "EU"と"Non EU"に分かれて並ばされた。 "EU"の列はどんどん進むのに、 "Non EU"の時間のかかることったらない。 旧ソ連の人が多いせいなのだろう。 エストニアなんかじゃなくて、素直にヘルシンキから入れば良かったかなぁと、ちょっぴり後悔の念がよぎる。

ようやく順番が来て、窓口に行くと 「スウェーデンには何日滞在するのか?  そのあとどこに行くのか?  いつEU諸国を発つのか?」と根堀り葉堀り訊かれ、 結局、旅程を全部言わされた。 でも、あまり予定を立てずに旅する人だって世の中には少なくないものだ。 そういう人は焦るだろうなぁ。


ストックホルムにて

バスでストックホルム中央駅に出て、荷物を預ける。 ストックホルムはみどころが多いが、私の旅行の目的はリンドグレーン。 ここはなにをさておいてもユニバッケンに行かなくてはならない。

幸いなことに、「歩き方」の地図にユニバッケンは載っていた。 (ただし解説は一切無い。) 有名な「北方博物館」のすぐそばなので、行き方は簡単。 バス停「北方博物館」で下車し、"JUNIBACKEN"の標識どおりに4,5分行くとそれはあった。意外に地味な建物だ。 窓口には入場券を求めるスウェーデンの親子連れが列をなしている。 ところが、この窓口のおねえちゃん、やけにのろのろしているのだ。 やる気無いんじゃないの?

ようやく入場券を買うことができた。 大人85クローナ。うぐっ、、、高い。。。 中に入ると、子供っぽい飾り付けがなされた小ホールがある。 まっ、まさかこれだけ・・・?

ユニバッケンの外観
ユニバッケン

奥まで行くと、おとぎの国のおうちの前に、またまた列ができている。 何があるのかわからないまま、その列のあとにつく。 少しずつ前に進み、おうちの中に入ると、 壁には世界各国で出版されたリンドグレーンの作品が展示されている。 日本語のは・・・?と探すと、「ミオよわたしのミオ」があった。 そして、列の先を見やると、 これから何があるのかが、ようやくわかった。 ここで車両のようなものに乗るのだ。 ディズニーランドあたりでよく見かける、座ったまま空想の世界に連れていってくれるという、例のあれである。 各国語(とは言っても日本語は無い)で「スウェーデン語以外をご希望の方は係員にお申し出ください」と書かれているので、 "I don't understand Swedish."と申し出る。 ちょうど私の前にいた父親と子供の二人連れが英語希望だったため、 相席させてもらうことになった。

まずはスウェーデンの農村風景が広がる。「いたずらっ子エーミル」の世界だ。次は山奥。「ローニャ」と言っているから、「山賊のむすめローニャ」に違いない。これはけっこう長く続く。出発前、力尽きてローニャを読まないまま来たことを心の底から後悔する。 次は夜のストックホルム。町の上空を「屋根の上のカールソン」が飛んでいる。 「親指小僧ニルス・カールソン」の世界を垣間見たあと、 「はるかな国の兄弟」が始まり、 物語全編のあらすじが紹介される。 この作品を出発間際に大慌てで読んだのは、 熱烈なファンである友人の存在が大きかったのである。 「私、これが大好きなの」と言いながら本を見せてくれたときの、彼女の キラキラした目といったら! その目にほだされて(?)読んでおいて本当によかった。 ラストシーンでは完全にウルウル状態。ああ、ヨナタ〜〜〜ン!!!

お土産コーナーをひやかして、ユニバッケンを出ると、 目の前に小さな銅像があった。 見覚えのあるおばあちゃん。そう、アストリッド・リンドグレーン その人である。 写真を撮ってユニバッケンをあとにした。


■旅のアドバイス■

ユニバッケンのスウェーデン語のナレーションは、 アストリッド・リンドグレーン自身によるものだそうです。 スウェーデン語が多少なりともわかる人はぜひ頑張って 聞いてください。 また、ユニバッケンの入場料はストックホルム・カードで 20クローナ安くなります。

また、リンドグレーンとは関係無いのですが、 ユニバッケンのすぐそばにあるヴァーサ博物館には、 数百年もの間、海底に沈んでいた中世の帆船・ヴァーサ号 が展示されています。 これは「ナルニア国ものがたり」のファン必見。 ヴァーサ号はまさに「朝びらき丸」そのものなのですから。 ヴァーサ博物館はストックホルム・カードで無料になります。


夕方、三瓶恵子さんと落ち合い、中華レストランで食事。 この日は三瓶さんのお宅に泊めていただいた。

スウェーデン社会に関する研究に携わっておられる三瓶さんは、 「エーミル」シリーズの翻訳者であり、「ピッピの生みの親 アストリッド・リンドグレーン」(岩波書店)の著者 でもある。 こういう方とお近づきになれたのは インターネットのお陰なのである。 国境や職種を越えて人の輪を広げることのできる インターネットというものは、本当に偉大な発明である。


リンドグレーンのふるさとへ

もうふたりは、ひろびろとひろがった人里をあとにしていた。 農家も小作小屋もなく、ただ森ばかりであった。まっすぐ高く伸びたモミの木のあいだから、太陽が光をさし投げ、地面の青いコケやリンネ草のかわいいつりがねを照らしていた。 (「さすらいの孤児ラスムス」より)


翌朝は三瓶さん宅を8時半頃出て、ストックホルム旧市街を散策し、 11時15分発カルマル行きInter Cityに乗る。 14時過ぎにLinkoping(=リンチョーピン。"o"にウムラウトが付く) 着。14時25分発のローカル電車(すべて自由席)に乗り換える。

アストリッド・リンドグレーン・ワールド内の林
「ラスムスとオスカルの森」はここにも
(アストリッド・リンドグレーン・ワールド内)

車窓から見えるのは森ばかり。 普通の人には フィンランドやバルト諸国で見た森と同じに見えるだろうが、 私の目には全く別物に見えた。 これはラスムスとオスカルが仲良くさすらった森、 希望の光に満ちた森なのだ。

15時半頃 Vimmerby(ヴィンメルビー)着。

ヴィンメルビーの駅前には、 予想どおり、観光客向けのものは何も無かった。 バスもタクシーもいない。 何のあても無かったが、試しに駅前バスターミナルを横切ってみたら、 前方に教会の尖塔が見えたので、その方向に行くと "CENTRUM"の標識があった。 教会に着き、さらに歩いていくと、 ホテルがあった。 朝日新聞に紹介されていた"Stadshotell"、3つ星である。 新聞にはずいぶん高いことが書いてあったけれど、せめて1泊1万円以下だったらいいなぁ、と思いつつ、 フロントで値段を訊いたら、朝食込み740クローナとの答え。 良かった〜!!(2001年現在、1クローナ=12円)  チェックインした部屋は本当に素晴らしかった。やっぱり3つ星は違う。

荷物を置いて、まずはインフォメへ。 地図をもらい、アストリッド・リンドグレーン・ワールドの行き方を教えてもらってから 私は尋ねた。
「Bullerby(ブッレルビー=やかまし村)に行きたいのですが、 私は車がありません。バスで行けますか?」
すると、インフォメのおねえさんはバスの時刻表をくれて、 その見方とやかまし村の最寄りの停留所を教えてくれた。 よし、これで明日はやかまし村行きと決まった。

ユニバッケンの前にあるリンドグレーンの銅像
ストックホルムにあるリンドグレーンの像

そうと決まったら、アストリッド・リンドグレーン・ワールドは 今日中に見ておこう。 家族連れと肩を並べて 幹線道路沿いをてくてく10分ほど、 "Welcome to Astrid Lindgren World"という文字が見えた。 さらに先の"Entree"(←なぜここだけフランス語なのだろう?) の矢印に従っていくと、建物があった。

入って「チケットをください」と言うと、 「ガーデンだけですか? それとも全部見たいのですか?」と聞かれた。 質問の意味がよくわからないまま、「全部」と答えると、 全部見られるチケットはいくらいくらです、となんだかものすごい値段を言ってくる。 えっと驚いていたら、時計を見て
「あっ、もう4時を過ぎていますね。 4時からは半額になるはずなのですが、 ここには割引チケットはありません。 直接メイン・エントランスに行ってください」
という答えが返ってきた。 ここは入り口ではないのか。。。 そうか、わかった。 ここは、冬場、屋外の施設が閉鎖されるときのために 最近新設されたという博物館(Astrid Lindgren Garden)なのだ。

言われたとおり行くと、ゲートがあった。 でも誰もいないし、チケット売り場の窓口も閉まっている。 どうしたらいいの? 入っちゃうわよ。


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