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児童文学の旅
リンドグレーン聖地巡礼記(2)

入っちゃった。ただで。

儲かった。 でもちょっぴりうしろめたい。 再びゲートを出て、 閉まった窓口を一瞥する。 払いたくても払えないんだから、しかたないじゃない。


アストリッド・リンドグレーン・ワールドにて

気を取りなおして(?)再びゲートをくぐり、奥に向かって歩き始める。 少し行くと歌声が聞こえてきた。 小さな子供のいる農民の家族が小さなテーブルを囲んでいる。 どうやらエーミルとその家族 が食事中らしい。

エーミル一家(写真では小さくてよく見えない)が食卓を囲んで歌っている
(あまりよく見えないけれど)観客の向こうに
食卓を囲んで歌うエーミル一家がいる。

さらに奥に行くと、野外劇場があり、 ちょうど劇が始まったところだった。 そばの売店でアイスクリームを買い、食べながら舞台に見入る。

その劇はいくつかの作品を組み合わせたものらしく、 メインは「山賊のむすめローニャ」のようだ。またローニャかぁ。 やっぱり読んでおくべきだった。。。 しばらく見ていたら、背の高い若い男性と小さな男の子が仲良くしている。 あっ、あの衣装、あの背格好は、もしかして・・・ 間違い無い、あれはクッキーとヨナタン「はるかな国の兄弟」だ。 本の挿絵と全くおんなじ! 特にヨナタンは感動するほど挿絵そっくり。 もう一つの作品がはっきりわからない。 むさくるしいおっさんと、小汚い男の子。 これはいったい・・・?  そのうち、女性が登場して洗濯物を干し始める。 ・・・わかった! これは 「さすらいの孤児ラスムス」だ!  そして最後は再びローニャ。山賊たちの歓喜の踊りだ。 スウェーデンの伝統的な音楽や踊りは 本を読んでいてもわからないから、 ここで見られてよかったなあ。


■旅のアドバイス■

野外劇場での劇は、Stadshotell内の掲示によると、 数種類の演目があり、1日に何回か上演されるようですから、 絶対にお見逃しないように。 どういう演目に当たるか、 宝くじのつもりで楽しみにして行ってください。


野外劇場。肝心の舞台が陰になっているが、「はるかな国の兄弟」の一場面が演じられているところ。
野外劇場(肝心の舞台が陰の中)

劇を堪能したあと、園内をのんびり廻った。 ラスムスとオスカルが出会った納屋とか、 ロッタちゃんの家といった、 リンドグレーンの作品に出てきた建物が あるのだが、ご多分にもれず、 どれもお子様サイズである。 でもこの際文句は言わない。小さくてもいいから、 私の子供時代の思い出の作品「名探偵カッレくん」に関する建物が何か一つあったら、 どんなに嬉しいことだろう。 大平原の地主屋敷は無理でも、せめてヴィクトル・ブルムクヴィスト食料雑貨店の看板だけでもあればいいのに・・・。

それでも、私の心は浮き立っていた。 広い園内の小道を木漏れ日を浴びながらを歩き回るのは最高に気持ちがいいし、 何よりもリンドグレーンの作品の登場人物に 出会えたからである。 それも、ただその辺を歩いているのを見かけたのではなく、 舞台上の彼らが作品のディテールを忠実に再現して くれたのだ。 1人で読んでも面白いリンドグレーンの原作を、リンドグレーンを愛する人々と共に読んでいるようなものである。 楽しくなかったら嘘だ。

断念

わたしたちが砂糖やらコーヒーやらを買うお店は、大村の、学校のすぐそばにあります。それで、おかあさんがなにかの品物をほしくなると、ふつうわたしが、学校のおわったあとに買っていくのです。(「やかまし村の春・夏・秋・冬」より)


ホテルに帰ってバスの時刻表を調べた。

ヴィンメルビー駅前発のバスに乗ると、たった8分でPalarne(ペーラルネ)に到着する。 やかまし村はそこから2キロ。 近くにカフェもあるというので、 のんびり歩いてお茶して帰って 来るとちょうどよさそうだ。

ところが、翌日が土曜日であることがネックになった。 土日はバスの本数が極端に少なくなり、 行くことはできても、 ストックホルム行きの電車に間に合うようにヴィンメルビーに帰って来ることができない。 思い切って歩いて帰るか? インフォメでもらったパンフレットを見るとヴィンメルビーから15キロとある。無理無理。 毎日大村の学校に通っていたリーサたちには笑われるかもしれないけれど、 インフォメの人も「歩いて行くのは無理でしょう」と言っていた。 カフェでタクシーを呼んでもらって駅まで帰ってくるという考えも頭をよぎったが、 物価が高いスウェーデンで、とてもそんなことをする勇気は出なかった。 残念だが諦めよう。


■旅のアドバイス■

「ヴィンメルビー〜ペーラルネ」の、平日のバス時刻表です。

Vimmerby発(Palarne着は8分後)
 6:20, 7:25, 9:25, 11:15, 15:05, 17:20, 19:20

Palarne発
 7:28(Vimmerby着7:45), 12:28(Vimmerby12:45),
 15:32(Vimmerby15:45), 18:32(Vimmerby18:45)

9時25分のバスででかけて、12時28分のバスに乗って帰ってくる、 あるいは11時15分のバスででかけて、15時32分のバスで帰ってくる、というのが一般的だと思います。
15時05分のバスででかけて、18時32分のバスで帰ってくる というのも、日が長い夏であれば可能でしょう。

ただし、これは2001年夏の平日の時刻表ですので、あくまでも参考にとどめてください。



ヴィンメルビーの静かな1日


「この町には、表通りがひとつ、横町通りがひとつあるっきりだよ」よその土地から 見物にやってくるひとたちに、パン屋のリサンデルおじさんは、 いつもこう説明していた。まさにパン屋さんのいうとおりであった。大通りと横町通り、それに大広場があるだけだった。 (「カッレくんの冒険」より)


翌日はのんびり寝坊した。 スウェーデンの親子連れでにぎやかな食堂で、 ボリュームたっぷりのスウェーデンの朝食をお腹一杯食べ、 部屋に帰って目一杯ぼやぼやしてからチェックアウト。荷物をホテルに預けて Nas(=ネース。"a"の上にウムラウトが付く)目指してでかける。 これはリンドグレーンの生家であり、そのすぐそばで彼女の身内が 店を開いているという。

左手の木造の建物がBoa
左手の建物がBoa。奥の木にはピッピの
ぶらんこがある(のだが見えない)。

おしゃれな住宅が点在する住宅地を10分ほど歩くと、集合住宅が見え始めた。 さらに少し行くと、スウェーデン国旗と"Nas"と"Boa"と書かれた表示が 見えた。 その脇の小道をずんずん入っていくと、茶色い木造の建物があった。 建物の前の木にはぶらんこがある。 ピッピのぶらんこだ。

建物の中に入ると リンドグレーンの著作(ほとんどがスウェーデン語だが、 一部ドイツ語版もある)がずらりと並べられ、 中年の男性がいて、 流暢なドイツ語で客の相手をしていた。 彼は私を見ると、「英語とドイツ語のどちらがいいか」と訊いてくれた。 もちろん英語です。

「どちらからですか?」
「日本からです」
「それはそれは遠くからようこそいらっしゃいました。ここには東京の北欧文学を専攻の大学生のグループがバスでやってくるんですよ。彼らにどの作品が一番好きかと尋ねると・・・」
私は無意識のうちに「やかまし村」を指差した。
「そう、その作品を挙げる人がとても多いのです。でも私には不思議でしょうがないんです。 ここに描かれているのは伝統的なスウェーデンの暮らしそのものなのです。それがなぜ遠い外国の人々に好まれるのか・・・」
私は「心温まる作品ですから」と答え、そばにあった「さすらいの孤児ラスムス」を指差し「これも好きです」と言った。
「その作品はいいですねえ。私も大好きなんです」
「子供のときに大好きでよく読んだのは『カッレ』なのです」
「おお、カッレ・ブルムクヴィスト!!」
「でも、ストックホルムのユニバッケンにも、ここのアストリッド・リンドグレーン・ワールドにも、 カッレに関するものは何もありませんでした。もう忘れ去られてしまったのでしょうか」
「忘れ去られた、ということではないと思いますよ。映画化されたし、 ほら、本もここにあります」
彼の示したのは挿絵一つもない、古臭い装丁の本だった。う〜ん、 カッレくん、君はあんまり良い扱いを受けてないみたいだわねえ。
『カッレ』の町の描写にはヴィンメルビーを彷彿とさせるものが少なくないんです。こんなふうに・・・」
と言って見せてくれたのは、"Mitt Smaland"(=私のスモーランド。 Smalandの最初の"a"の上には小さな○が付く。スモーランドとはこの地方の名称 )というタイトルの写真集だった。表紙には 野原を歩くリンドグレーンの姿があり、中にはリンドグレーンの作品の挿絵と、それらとイメージの合う風景写真が載っている。これならスウェーデン語がわからなくても 楽しめると、私は大喜びでその写真集を買い求めた。 このおじさん、商売うまいわ。。。

リンドグレーンの生家とピッピの家のモデル
左がリンドグレーンの生家。右の赤い屋根が
ちらりと見えているのがピッピの
「ごたごた荘」のモデル。

このあと、他の客たちと外に出た。 おじさんも一緒についてきて説明してくれる。

「これがリンドグレーンの生家です。現在も身内が住んでいるので 公開されていません。 その向こうがピッピの家のモデルです」

ちなみに店名"Boa"の由来は、エーミルが時々とじこもって 木彫りの人形を作る、あの納屋なのだそうだ。

ヴィンメルビー市内の リンドグレーン聖地巡礼は こうして終わった。 ゆっくり歩いても10分で町の中心に戻れてしまう。 町の散策といっても、小さい町なのでろくなものはない。 (パン屋のリサンデルおじさんの言うとおりだ。) でもスーパーは巨大なのが2軒あった。 「やかまし村」の大村だけのことはある。 町の広場では何かのイベント中らしく、 消防車がいて、ちょいと年をくったエーヴァ・ロッタが ビール瓶の箱みたいのを積み重ねて登っている。 広場に面したところに 中華レストランがあったので、そこで昼食をとった。 お味の方はいまいちだ。。。

さて、このあとは何をしよう? 

そうだ、地図を作ろう。 ヴィンメルビーの町の地図が載っている日本のガイドブックなど無いのだから、 HPにアップしたらリンドグレーン聖地巡礼を目指す人の役に立つはずだ。 旅行サイトを持っていて良かったとしみじみ思った。 そうでなかったら、何もすることがなくて暇をもてあましたことだろう。

こうしてその午後をきわめて有意義な活動に費やした私は、 16時10分発の電車に乗ってストックホルムに戻ったのであった。 (2001年8月)


■旅のアドバイス■

ストックホルム〜ヴィンメルビーの電車の所要時間は 最高に短くて3時間20分程度。 4時間はかかると思ったほうがいいでしょう。私は直通のInter City でストックホルムに帰りましたが、行き(=Linkoping乗り換え)の電車に比べて それほど速くもありませんでした。 旅のルートとしては、 私のようにストックホルムにとんぼ帰りするより、 ヴィンメルビーのあと、スウェーデン南部へ抜けたほうがいいかも。 さらに南下してデンマークに抜け、 アンデルセンの旅につなげるという手もあります。


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