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えせバックパッカーの旅日記
肌水のいらないアイルランド(2)

7月31日:雨

朝食後、B&Bをチェックアウト。今日はダブリンを発ってゴールウェイに行くつもり。相変わらずの雨だが、小雨だし、今日はTシャツの上にしっかりセーターを重ねているので寒くない。中央バスターミナルで「8日間のうちの3日だけアイルランド中のバスが乗り放題になるチケット」を購入する。

ダブリンで見つけたフトン屋
ゴールウェイ行きのバスの出るゲートには、長蛇の列ができていた。どうなることかと一瞬焦ったが、1台では客を乗せきれないとみるや、すぐさまバスは増発された。

途中のアスローンという町で休憩。 ここはどうしようもない田舎という感じ。何か温かいものを飲みたかったのだが、売店に売っているのは冷たい飲み物ばかりだった。

フトン屋の看板の拡大写真
再びバスに乗る。車中ではかなりの時間、眠って過ごした。今日は楽な1日だなあと思っていたのだが、これが大きな間違いだったということが、後になってわかることになる。ときどき薄日が差すことがあり、期待に胸を躍らせたのだが、ゴールウェイに近づくと、また雨模様になった。車窓から外を見ると<RACE>という表示がやけに目につく。いったい何のことなのかなあとぼんやり思っているうちに、ゴールウェイ駅前に到着した。

時間はまだ2時半。この時間なら宿探しも楽勝だろうと思ってインフォメに行くと、2階の宿泊予約カウンターの前はごった返していた。ようやく順番がまわってきたので、私はダブリンのときと同じように切り出した。
「B&Bに泊まりたいんですけれど」
係の女性は申し訳なさそうな顔をした。
「今、この町では競馬をやっているんです。バンク・ホリデーとも重なっているので、町中のB&Bは週単位でふさがっています」
ショック!
バスから見えた<RACE>の文字、あれは競馬のことだったのだ。

ダブリンで見つけたフトン屋その2
気を取り直し、ダブリンのときと同じことを言ってみる。
「バスに乗らなくてはならないような、町はずれでもいいんです」
「そういうところも、全部ふさがっています。残っているのはこの町から10マイルか15マイル離れたところだけです」
またまたショック!!
交通不便なこの田舎で、10マイル離れていたら、車が無い私は身動きが取れなくなってしまう。
「ユースならなんとかなりますが」
私が好きなのは、B&Bであってユースではない。でも、他に選択肢が無いのなら、我慢するしかない。
「それではユースに1泊します。そして、明日はアラン諸島に行きたいので、島のB&Bを探していただけますか?」
「ゴールウェイよりは可能性がありますね。オーケー、あたってみましょう」

彼女はコンピューター画面を見ながら、次々と島のB&Bに電話していく。島もけっこう混んでいるようだ。ようやく、あるB&Bに部屋が見つかった。
「フェリーの乗り場から20分歩かなくてはならないところなのですが、いいですか?}
荷物を背負って20分!
でもしかたがない。私は大きく息を吸って答えた。
「かまいません。歩きます」
B&Bの予約書を渡しながら彼女は、
「ここも明日の1泊しか空いていなかったんですよ」
と言った。

ゴールウェイのユースの予約の方は簡単に終わった。
「町中のユースはもうふさがってしまっているので、もう1つの、町はずれの方になります」
「地図をいただきたいのですが」
「1階のインフォメーションカウンターで訊いてください」

ゴールウェイ
言われたとおり、1階のカウンターの男性係員に尋ねると、彼は町の中心部しか載っていないお粗末な地図を取り出し、
「この道はこの先、こんなふうになっています。ここに信号があって・・・このへんです」
と言いながら、地図の余白に道順を書き込んでくれた。なんともあやふやな地図で、心もとないことこの上ない。

歩き出してみたものの、悪い予感は的中した。 もともと地図に描いてあったところまでは確実にたどりついたのだが、その後の、男性係員が書き足してくれたところからは、もういけない。わけがわからない。雨は相変わらず降り続けている。霧のような雨粒が風に飛ばされ、顔に直接吹き付けてくる。S社の製品に「肌水」というスプレー式の化粧水があるが、まさにあれである。

アイルランドでは肌水はいらない。天然の肌水がこんなにあるんだもの。

でも、こんなことをのんきに考えている場合ではない。私は道に迷ってしまったのだ。通りすがりの人に道を訊いても、どうも「インターナショナル・ユース・ホステル」はあまり有名でないらしく、どうもはっきりしない。

と、そこに買い物帰りとおぼしき中年女性がやってきた。
「すみませんが、インターナショナル・ユース・ホステルはどこなのでしょうか? 住所はセント・メアリー・ロードなのですが」
「それならその道を行くんですよ。途中、道が曲がるけれど、道なりに行くと、別の道につきあたります。そこを右に曲がるんです」
私はさぞかし不安そうな顔をしたのだろう。彼女は連れて行ってあげましょうと言ってくれた。
ほんとうですか!? どうもありがとうございます。
「ほら、あそこに門があるでしょう。あれがセント・メアリーズ・カレッジの門です。夏の間だけユースになるんです」
インターナショナル・ユース・ホステルこと
セント・メアリーズ・カレッジ
そう言われてみれば、門にユースの看板がかけられている。知らなければ見落としてしまいそうな、小さな地味な看板である。その門を入ると、なだらかな丘の上に、堂々たる建物がそそり立っていた。陰鬱な空の下の、その迫力ある姿は「アッシャー家の崩壊」を思わせた。

受付の女性にインフォメでもらった予約書を見せると、宿泊台帳に必要事項を記入するようにと言われた。ゴアテックスのジャケットから水がしたたり落ち、台帳はぐしょぐしょになった。部屋番号とベッド番号の書かれた紙切れを頼りに部屋にたどり着くと、そこはあきれかえるほど広大な部屋だった。設備そのものはかなり老朽化しているが、広い空間にぽつんぽつんとベッドが置かれていて、ドミトリーといえども、個人の領域がしっかり確保されている感じだ。こういうユースならゆっくりくつろげていいな。トイレとシャワーが部屋に直結しているため、トイレに行くのに一度廊下に出る必要がないのも嬉しいし、なおかつ、トイレの個室の数が多いのも、大いに気に入った。

ゴアテックスのジャケットのお陰で、上半身は濡れずに済んだが、ズボンの方はびしょぬれになっていた。早速履き替え、濡れたズボンを部屋の中に干す。部屋が広いと、「どこに干そうか?」と頭を悩ませる必要がないのがありがたい。

いよいよゴアテックスのズボンの出番である。

雨の中を嬉しそうに歩き回る
観光客たち
明日はアラン諸島に行かなくてはならない。道に迷って朝のフェリーに乗り遅れたら、すべての計画が狂ってしまう。だから、このユースから町までの正しい道を覚えなくてはならないし、第一、まだ夕食をとっていないのだ。受付の脇に貼ってあった町の地図を頭にたたきこみ、再び雨の中に出ていく。

今度は道に迷わなかった。それでも、駅にたどり着いたときには、ユースを出てから30分以上たっていた。

肌水のような雨は、相変わらず顔に吹き付けてくる。その中を、観光客たちがぞろぞろ歩き回っている。ここゴールウェイの町は、ダブリンとは比べものにならないくらい美しい。それが人々の心を浮き立たせるのだろうか。それとも、競馬の大会で盛り上がっているせいなのだろうか。みんな「雨なんか屁の河童さ!」という顔をして、歩き回っているのだ。かくいう私も、負けずにうろうろ歩き回った。ほとんどの人が防水ジャケットを着込んでいるが、ズボンまで防水のもので固めている人は、そうそういない。「勝った」と思った。

駅のそばのショッピングアーケードに入ると、ぬくもった空気が身体を包んだ。日本の梅雨時だったら、蒸し暑さにげんなりするところだが、このときばかりは、その湿り気を含んだ暖かさが嬉しかった。

夕食は安レストランで、キエフ風チキンのグリンピース・にんじん・ポテト添えをとる。これだけで十分満腹したのに、さらに欲張ってシェリー・トライフルとコーヒーをとる。再び雨の中を30分歩いてユースに帰った。



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