この狭苦しい部屋の二段ベッドでは、いったん目が覚めてしまったが最後、二度寝などできない。さっさと起き出し、さっさと朝食を終えて食堂を出る頃には、食券を手にした宿泊者の長蛇の列ができていた。バスの時間にはまだ間があるので、のんびりしたいところなのだが、なにしろ狭くて、いる場所が無い。仕方がないので早々にチェックアウトし、バスステーションに向かった。今日も空はどんより暗い。でも、雨さえ降らなきゃ上天気だ。
やけにごみごみした町に入ったなと思っていたら、それがコークだった。ここで10分間の休憩をとり、バスは東へ向かう。ウォーターフォードの手前から薄日が射しはじめた。陽射しを肌に感じるのは何日ぶりだろうか。6時間の長距離バスの旅は、ほとんど眠りこけているうちに終わった。 たまに目が覚めたときに、1つ、気づいたことがある。アイルランドでは、乗客が運転手とよくお喋りをするということである。たいていの場合、乗客は中年のオヤジで、運転席のそばの座席が空いていると、すかさずそこに座り、バスを降りるまで、際限なく運転手と喋り続ける。「パブでギネス片手にうだうだと長話をしている」というのが典型的なアイルランド人のイメージだが、ギネスがなくても実によく喋る。
ウェックスフォードには予定よりも30分ほど遅れて到着。 目の前に流れる川は、海と見まごうほど幅が広い。ここはほとんど海辺なのである。その広い広い川にかかる、長い長い橋を渡ると、キャンプ場があった。インフォメで紹介されたB&Bはその少し先である。
今日の私の部屋は18ポンドだが、キラーニーの19ポンドの部屋とは比べ物にならないほどこぎれいで、広々していた。棚がたくさんあったので、荷物を全部出して並べて悦に入った。ベッドはダブルだし、あらゆる点において、昨夜とは段違いだ。 |
8月8日:晴れぐっすり眠り、目覚めると外は晴れていた。こんな朝は何日ぶりだろうか。 このB&Bの朝食にはぬくもりが感じられる上に、シリアルとオレンジジュースが食べ放題・飲み放題だった。最後のアイリッシュ・ブレックファストをお腹いっぱい食べ、10時頃チェックアウトする。
真っ青な空には太陽がさんさんと輝いていた。目の前に広がる鏡のような川面も、それに負けじと光をはね返してくる。私はこの世界の光という光を、すべて身に受けるつもりで、大きく伸びをした。<完>(1997年夏。当時1アイリッシュ・ポンド=約180円) |