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えせバックパッカーの旅日記
信者でない人のためのルルド案内(2)

うろうろし続ける

さて、今度こそルルドの水を汲まなければならないのだが、いったい水汲み場はどこにあるのだろう?  それらしき表示があったので、そばに寄ってみたら、 "PISCINE"(ピシーヌ)と書いてある。 はて? これは「プール」という意味の単語である。いったいなぜここにプールがあるのだろうか?

博物館のガイドの兄さん

うろうろしていたら、すっかりお腹が空いてしまった。 水汲みはあとまわしにして、坂を上り、レストラン探しをする。歩いてみて、つくづく思ったのだが、この町はホテルも多いが、レストランも非常に多い。しかも、ありがたいことに、全般的に値段が安い。 店の外に書いてある定食の値段を見て、 適当なところに 入ってみたら、実にウェイターが親切だった。 ビール、生野菜、牛肉の煮込み、プリンでお腹一杯になり、私はいっぺんにルルドが大好きになった。

丘の上にある城塞が、ピレネー博物館になっているというので、腹ごなしに入ってみることにした。 館内見学は、学生のアルバイトなのだろうか、 とても元気なお兄さんの解説付きだった。 けっこう面白かったのだが、展示物の内容は何一つ覚えていない。 ただ、
「ルルドはパリに次いで、フランスでホテルが多い町なので、宿が取れないということは絶対にあり得ない」
という話が鮮烈に記憶に残った。 こんな小さな町が「パリに次いで2位」だなんて!  丘の上からの眺めは最高だったが、ひどく暑かった。真夏のピレネーの強い日差しが身にこたえた。

この後、再び坂を下る。ぼやぼや歩いていたら、病人を乗せたキャスター付きベッドを引っ張っている若者に
「失礼。このペンキで描かれた線の内側は、私たち優先なのですよ」
と注意されてしまった。
あらま、知らぬこととはいえ、ごめんなさい。


ピシーヌ

夜行の疲れも残っていたのだろう。 この後、また川沿いをうろついたのだが、 私はかなりへばっていた。 とは言っても、 時間はまだまだある。 何か疲れないでできることはないだろうか?  ふと気が付くと、午前中に見た「ピシーヌ」のところに来ていた。たくさんの人々が、 屋根の下のベンチに座って何かを待っている。 よく見ると「男」「女」という表示があり、 人々はそれに従って、分かれて座っている。

ようやくわかった。これは奇跡の水を浴びる場所なのだ。

私は考えた。まだ水を汲んでもいないが、 それよりも先に水浴び場を見つけてしまったのは、 何かの縁なのではないだろうか。 ちょっと怖い気もするが、これこそ、ルルドでしかできない経験だ。 心の中で「やってみろ」という声がする。 しかし、カトリック信者でもない私に、その資格があるのだろうか? いやいや、教会というところは、万人に対して門戸を開いているのだから、 ここで私が水を浴びていけないはずがない。 問題は、裸にならなければならないことだ。 お前にその覚悟があるのか?  信仰の後ろ盾無くして、それに耐えられるのか?

城塞から眺めたルルドの町

さんざん迷った末、最後列のベンチに腰を下ろした。正直なところ、疲れていて、座りたくてたまらなかったのである。「全身ではなく、足に水をかけるくらいにしておこう」と自分に言い聞かせながら、 待ち続けた。 目の前では、おそらく人々の無聊を慰めるためだろう、ボランティアらしきグループが聖歌を歌っている。お祈りや聖書の一節が書かれたカードなども配られる。なんだか空気がとても濃密で、精神的に負けてしまいそうだ。 「やっぱりやめよう」と何度も思った。

ふと見ると、10歳位のラテン系の女の子が、水浴びをすませて出てきた。彼女は待っていた母親を見つけると、輝くような笑みを浮かべ、駆け寄っていった。
「ちゃんと水浴びした?」
「うん。どきどきしちゃった」
聞こえたわけではないが、きっと2人はそんな言葉を交わしたのだと思う。 女の子の嬉しそうな顔が印象的だった。 その笑顔を見ていなかったら、 きっと私は途中で席を立ってしまっていたことだろう。

私の番が来た。入り口を入ると、白衣を着たおばさんが「初めてですか?」と訊いてくる。 「はい。だからちょっとだけでいいんです・・・」
私のか細い声は、ビニールのカーテンの向こうから聞こえてくる水音にうち消された。
おばさんは
「はいはい、脱いでください。はい、そちらにどうぞ」
おばさんにガウンを着せかけられた私は、 ビニールのカーテンの向こう側に送られた。 気が付くと、私は裸で浴そうの縁に発っていた。 そこには別のおばさんが2人いて
「はあい、滑りやすいですから気を付けてくださいね。 足先からそっとね。・・・はあい、首まで浸かって、 お祈りを唱えてくだあい。・・・はあい、 そこにあるマリア様の像にキスしてね。 そうそう」
こうしてすべては終わった。水の冷たさと、おばさんたちの熟練だけが、やけに記憶に残った。

服を着て外に出ると、なんだか世界が変わって見えた。焦ってろくに身体を拭かなかったにもかかわらず、肌がとてもさらさらしている。

もと来た道を再び戻ると、水汲み場があった。
なんだ、こんなところにあったのね。 どうしてさっきは見つからなかったのかしら。

持っていたミネラルウォーターの中身を捨てて、 ルルドの水をたっぷり入れた。


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