えせバックパッカーの旅日記|
アンチラベはアンタナナリブとはうってかわり、 すがすがしい町だった。 車の量がぐんと少なく、空気が爽やかで、 街路樹の緑が目に快い。 車が少ない分、プスプス(=人力車)がやたらにいる。
私はここで6日までの4日間、「沈没」することになる。 「沈没」というのは、雑誌「旅行人」の編集長・蔵前仁一氏が作った言葉だと思うが、「長い期間、一箇所で何するでもなくぼけぼけと過ごすこと」を意味する。 たかが4日程度の滞在を「沈没」と呼ぶのは変なのかもしれないが、 私の気持ちとしては、十分「沈没」であった。 たかが3時間のタクシー・ブルースで酔いそうになるなんて、これから先が思いやられる。 出発直前の忙しかった数日間の疲れが出ているのかもしれない。 川下りとツィンギーのツアーを前に、ゆっくり養生するのが得策だ。 ここはひとつ、ぼやぼやして過ごすことにしよう。
アンチラベに着いた日に、ホテルの受付にいたのは、
ロドリッグという名の若い男性従業員だった。
その彼が、 ロドリッグは、明日の1時に出かけるとき、部屋のドアをノックしてみると言ってくれた。 |

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きれいな部屋でぐっすり眠った私は、翌日、元気になっていた。 部屋に運ばれる朝食は、パリパリのバゲット、コーヒー(コンデンスミルクを入れて飲む)、白くて塩気のない、生クリームの固まりのようなバター、ジャム、卵二つ使った目玉焼き。お味はなかなかのものである。 でも、これを運ぶのにトレイというものがなくて、 従業員が2度にわたって運んでくるのはどういうことなのだろう。 1度で済むように、なんとか工夫しようという気にはならないものだろうか。 今日はまず町の散策をしなくては。 昨日、プスプスに乗ってきてしまったので、 自分がどこにいるのか、いま一つぴんとこないのだ。 こういう状態は私としては我慢がならない。
出かけようとすると、フロントにいた女性---いかにもインテリ風で、完璧なフランス語を話し、貫禄があるので、経営者なのかもしれない---に
「川下りとツィンギーのツアーに行きたくて、一緒に行く人を捜している人がいるのだが、
話を聞いてみたらどうか」
と言われた。 出てきたのは年配のフランス人の男性だった。 8日間のツアーに行こうと思っているのだそうだ。 「私はもう別のところに頼んでしまっているし、日程が合わない」と断ったが、 このお陰で、 アンタナナリブではなく、ここアンチラベでツアーを申し込むことができるのだということを知った。 最初から知っていたら、なにも慌ててウィリーにお金を払うことはなかった。 うーん、失敗したかも。 ホテルを出て、プスプスのしつこい声を振り払いながら、町の散策をする。 爽やかな空気だが、日が高くなるにつれ、強烈な日差しが情け容赦無く降り注ぎ始める。1時間もすると、 猛烈に喉が渇き、身体が熱くなってきた。 体力の限界を感じてホテルに戻り、水を飲んで部屋で涼んでいると、今度は涼しさを通り越して寒くなってくる。 どうもなかなか難しい。 なにしろ部屋は南向きなのである。マダガスカルは南半球にあるので、 南向きということは、つまりは、日が入らないのだ。 このホテルの部屋のほとんどは南向きで、 いくつかある北向きの部屋の前には、 高い木が植えてあって、これまたあまり日が入りそうにない。 これが熱帯の家の造りというものなのか。
身体を暖めるために、1時になる前に、ホテル前の庭でひなたぼっこをして待っていると、ロドリッグが年配の女性と一緒にやってきた。 彼女はフランス人で、シャンタルという名前だった。 私たち3人は連れだって、町の南にあるタクシー・ブルース乗り場を目指した。 ところが今日は土曜日で、タクシー・ブルースがやたらに混んでいる。 待っていてもらちがあかないだろうというロドリッグの言葉に従い、 7キロの道のりを歩くことにした。 シャンタルはアンタナナリブ在住だった。 去年ご主人が亡くなり、思い立って以前から興味を持っていたマダガスカルに やってきて、子供センター(?)のようなところでボランティアをしているのだそうだ。 この日は彼女の波瀾万丈の身の上話を聞いて過ごすことになったのだが、 その内容に関しては、これ以上書くことは控えよう。 とにかく、湖の入り口でロドリッグと別れた 私たちは、まず湖畔のホテルのテラスに直行し、喉の渇きを癒した。 とりたててどうということのないその湖には、魚を獲っているボートが一艘ある以外、何もなかったが、 それが却って新鮮だったとも言える。観光地の湖に、白鳥の足こぎボートも何も無いなんてことは、日本では考えられないからだ。 その後、湖のほとりを半周ほどしてみたのだが、 歩くにつれて私たちの周りには子供たちが群がってくる。 みんな口々に「ボンジュール!!」と言っている。 この人なつこさは何なのだろう。
5時にロドリッグと落ち合い、私たちはアンチラベに戻るべく歩き始めた。 夕陽に照らされた田園風景は大変美しかったが、 このままアンチラベまで歩かなくてはならないのだろうか?
シャンタルがロドリッグに、
しきりと「話が違うじゃないの」
と言う。 と、 道半ば頃、やれ嬉しや、ようやくアンチラベ方面行きのタクシー・ブルースがやってきた。私たちは走って乗り込んだ。車内は超満員。 私とシャンタルは1人分の座席に2人で座り、ロドリッグを 始めとする男性数人は立ったままだった。 夕食もシャンタルとご一緒させていただいた。 今日のメニューはゼブ(背中にこぶのある牛)のステーキ。 初めて食べたその肉は、柔らかくて美味だった。
シャンタルはデザートのシュークリームを食べながらこう言った。 彼女の言葉に関して、判断を下すことは避けよう。 とにかく、この国に来て、そう感じた人がいたということである。
食事をしているとき、見知らぬフランス人カップルに声をかけられたことを書き落とすわけにはいかない。 |
