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えせバックパッカーの旅日記
ポルトガルのクリスマス(2)

イブの朝

朝シャワーを浴びてすっきりしてから、8時ぴったりに朝食室に行くと、真っ暗で閉まっていた。 フロントに下りて、おにいさんに訊いてみると、なにやら慌てた様子で、
「今日は場所が違うんです。あと10分ほどお待ち下さい」
と言う。

ボン・ジェズス教会への階段の登り口
ロビーのソファーで、一言もわからないポルトガルの朝ドラを観て待っていると、おねえさんがパンを抱えて出勤してきた。おねえさんはフロントのおにいさんと交代し、パンを切り、コーヒーを淹れ、「こっちです」とロビーに面した小さな部屋に案内してくれた。ついたての向こうにベッドが見える。本来は客室のようだ。そこにテーブルが2つ置かれている。このホテルには、現在、私を含めてせいぜい4、5人ぐらいしか泊まっていないのだろう。

ホテルを出て、ボン・ジェズス教会行きのバスが来る停留所へ向かう。そう言えば、ポルトガルの市バスというのは、どこで切符を買うのか知らなかったなあと思い、バス停の脇のキオスクのおじさんに、「ボン・ディア!」と話しかけ、イタリア語で
「ポッソ・コンプラーレ・ウン・ビリエット・デル・ブス?(バスの切符を買うことができますか)」
と言ってみたら、一発で通じた。 残念ながら答えは「ノー」だったが。
じゃあ、どこで買うの?
「イン・ブス?(バスの中で?)」(←「ネル・ブス?」と言うべきだったのかも)と訊くと、「スィン!(はい)」

後になって調べてみたところ、ポルトガル語で「切符を買うことができますか」は
「ポッソ・コンプラー・ウン・ビリエッ?」
だった。道理ですんなり通じたはずだ。(ちなみに、「バス」は「アウトカーロ」というのが正式なポルトガル語だった。)


ボン・ジェズス

階段を上っていくと、「ほこら」のようなものがある
9時10分のバスに乗る。最初はかなりいた乗客が、どんどん減っていき、最後は私ともう1人だけになった。9時半、終点ボン・ジェズス着。帰りのバスの時刻を調べようと思ったら、何も書いてなかった。バスのドライバーが「ケーブルカーはあっち」と教えてくれたが、私は首を振って、階段に取りついた。 せっかく階段があるのだから、自分の足で歩いて登ってみなくては。それに、この階段が何段あるのかが知りたい。ガイドブックに載っていなかったし、ネットで検索してみてもわからなかったのだ。だったら私が数えてやろうじゃないの。

ほこらの中(その1)
なだらかな階段を登り始めると、前方に小さな建物が見え始めた。数十段登ってそこにたどりつき、その建物の中を覗いてみると、暗くてよく見えないが、ゴミが散乱している中に、なにやら人形のようなものがある。なにやら表示も書いてあり、どうやら、聖書の中の有名なシーンか何かを表しているらしい。 フラッシュをたいて写真を撮ってみる。

階段はいわゆる「いろは坂」のように斜面にはりついていて、この建物---「ほこら」と言うべきか---のところで折れ曲がる。ほこらにたどり着くたびに、その内部の写真を撮り続けていったのだが、そのうちそれにも飽きてしまった。(帰国後、現像された写真を見て、案外よく撮れていたのに驚いた。)

ほこらの中(その2)
この登りは楽しかった。しかも、ここの雰囲気は妙に懐かしく、 まるで、神社の「奥の院」に向かっているかのような錯覚さえ覚える。

(数え間違いがあるかもしれないが) 479 段で ポルトの町を見下ろせるテラスのようなところにたどり着いた。 ここからは、丘の上にそびえ立つ教会がよく見えて、絶好の撮影スポットなのだが、残念なことに、逆光だった。つまり、教会に登る階段は丘の西斜面にあり、教会それ自体は丘の西端にあるのだ。 朝日に照らされたポルト市街の眺めは、それはそれでよかったけれど、西日に照らされた教会も見てみたかったなぁなどと、欲深な私は思った。

西斜面にそびえ立つボン・ジェズス教会
テラスから教会までは、小刻みにジグザグに登る。このあたりもまた、階段脇の白い壁といい、苔むした階段といい、まるで日本のようだ。周囲の樹木も、日本のそれに似ていて不思議な気持ちになる。踊り場に当たるところには、泉があり、それぞれに聖書ゆかりの名前が付けられている(らしい)。この泉だけが、今、自分は西洋にいるのだということを思い出させてくれる。

さらに100段ほど登ると、 目の前に教会があった。バス停から教会まで、(たぶん)合計676段。

左手にある泉だけが西洋している
ポルトガルの教会内は、仏壇的な雰囲気が漂っていて、妙に東洋的な匂いがすることが多いが、ここの教会はそれほどでもなかった。建物自体、比較的新しい感じ。 がらんとした聖堂内をひとめぐりし、10時の鐘の音を聞いて、外に出る。出て左手に、四つ星ホテルが見えた。ゆっくり景色を眺めながら、階段を降り始める。トレーニングウェアを着た若い男性が駆け上ってきた。さっき上で景色を眺めていたときも、同じような姿の男性が駆け上ってきたのだった。真冬のボン・ジェズスにやって来るのはスポーツ選手ばかりのようだ。

のんびり階段を降り、 下のバス停に着いたのは10時15分ぐらいだった。 10時40分のバスでブラガに戻る。来たときとは経路が違っていて、気が付いたら泊まっているホテルの前を通り過ぎていたので、驚いた。バスターミナルのすぐそばで下車することができたのは予定外の幸運。 11時5分発のギルマランイス行きのバスに乗れるかと期待したが、これは目の前で逃し、35分発に乗ることになった。


ギマランイス

イブの帰省ラッシュか何かなのだろうか。 道路が混んでいて、ギマランイスまで行くのにたっぷり1時間かかった。

ギマランイス旧市街。教会の脇の部分が「ご開帳」になっている
できたてのぴかぴかなショッピングセンターの中に併設されているバスターミナルで バスを降りて、表通りとおぼしき方に行くと、フランス系のホテル"IBIS"の裏口に出た。 でも、右手の丘の上に見えている旧市街に行くのに、悩むことは何もない。迷わずそちらの方向に行くと、間もなく、右に曲がる狭い道が見えた。方向は合っているのだから、何もごみごみした大通りを歩くことはない。そう思って、その道に入り込む。

くねくねした小道をたどると、小川が流れ、その向こうには平屋の家が、ひしめきあっていた。お互いにもたれかかるように立ち並ぶその家々から、子どもが走り出てくる。人の気配がするほうに目をやると、共同洗濯場があり、女性が2人、手で洗濯をしている。洗濯場の脇は共同の物干場があり、色とりどりの洗濯物が、やわらかな冬の日に照らされている。

身体の底から懐かしさが突き上げてきて、 私は震えるほど感動した。そして混乱した。 これはアジア、アジアそのものだ。でも、 確かここはアジアではなかったはずだ。いったい私は今、どこにいるんだったっけ?
・・・ポルトガル。ヨーロッパの西の端。
この答えを思い出すのに、ひどく時間がかかったような気がする。
かしいだ戸口から男性が出てきて、私のことを見た。
ああ、ここはよそ者が来るべき場所ではないのだ。 長居は無用。とっとと立ち去ろう。 でも、その前に、せめて1枚、写真を撮っておきたい・・・。 つぶれそうな平屋の家々。路地で走り回っている子どもたち。洗濯する女性たち。そのどれもが、最高の被写体であることは間違いない。

トラウル広場はオシャレな雰囲気
でも、と私は考えた。

アジアだったら、人々は外国人がカメラを向けることをあまり嫌がらないし、特に子どもの場合、写真に撮られることを、親さえもが喜ぶことが少なくない。 でも、ここはアジアではないのだ。いくら似ていても。ここの人々も、写真に撮られて喜ぶアジア人ではない。 残念だが、写真は諦めよう。

後ろ髪を引かれる思いで、私は引き返し、大通りに出た。ガイドブックに書いてあるとおりに進むと、ギマランイスの旧市街の中心であるトラウル広場に出た。

先ほどのような、 震えるほどの感動は覚えなかったものの、この町は予想以上に美しかった。 歴史を感じさせる落ち着いた佇まいの中に、驚くほど庶民的な広場があったりして、路地裏マニアである私は幸せに浸った。

うろうろ歩いていたら、ガイドブックに載っているレストランがあったので、ここで昼食にした。 注文したのは、いつもの野菜スープ、豚肉のロースト。つけあわせとしてポテト・にんじん・ブロッコリー。飲み物はミネラル・ウォーター。食後にコーヒーを取って満腹。比較的高級なレストランだったが、しめて14ユーロ也。

庶民的なサンティアゴ広場
ギマランイス旧市街の真ん中にある
食後は丘のてっぺんの城跡まで行き、帰りは下りながら、ありとあらゆる路地裏を歩いてみた。 歩いているうちに、周囲に人がどんどん増えてくる。彼らは何をするというわけでもなく、のんびり歩きなが話したり、立ち話をしたりしているので、賑やかなことこの上ない。この賑やかさも、どこかヨーロッパ離れしている。 ポルトガルの人って、いつもこんなに暇そうに喋ってばかりいるのだろうか? と思ったが、はたと気が付いた。今日はイブである。そして昼過ぎ。きっとイブの午後からクリスマスは、多くの人がオフになるのだろう。

3時過ぎ、路地裏を満喫した私はバスターミナルへ向かった。
3時半のバスでブラガへ。
ブラガに戻ると、スーパーに行き、ミネラル・ウォーターとクッキーとヨーグルトを購入した。
ホテル に帰ると、フロントのおねえさんが、「今日の夜から、明日1日中、町中の店が閉まります」と教えてくれた。
ありがとう。明日はチェックアウトして、他の町に行くから大丈夫です。
ところで、イブのミサに行くつもりなのだけれど、真夜中過ぎに帰ってきて、ホテルに入れるのですか?
「でかけるとき、入り方を教えてさしあげます」
よかった。
イブのミサは、どこの教会のがお薦めですか?
「もちろんカテドラルです」

部屋に戻ったのは5時半だった。


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