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風早彦グワイヒア
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フランス語版の挿絵です。
はてさて 何(誰)でしょう? 答えはこちら
マンガちっくな挿絵

ホビット以外の種族は、ほとんどが原作通りの名前です。

発音に関してですが、 普通のフランス人はBoromirを「ボロミール」、 Gimliを「ジムリ」、Sauronを「ソロン」 と読んでしまうはずです。 これらを正しく 「ボロミア」「ギムリ」「サウロン」と読めるかどうかで、 ぽっと出の読者であるか、 中つ国の言語の表記と発音の関係を熟知した 真性トールキニアンであるかが、判断できると 言えます。 んなこと判断できて何になるって? 何にもなりませんね(^_^;)

と、 ここまで書いてきて、映画のフランス語版吹き替えがどうなっているのか、 気になりだしました。 もしもきちんとした吹き替えならば、 映画を機に、かの地にも正しい発音が広まっているはずです。

で、発音確認のために---というのは嘘です、単に日本公開を待ちきれなかっただけのことなのです---2002年12月、フランスまで行って「二つの塔」観てきました! (そのときのレポートはこちら
結果、フランス語吹き替え版では「ギムリ」「ボロミール」「ソロン」でした。
また、「エント(Ent)」は英語と同じように「エント」でした。 普通のフランス語の発音では「アン」になるところなのですが、 「アン」じゃあ、何がなんだかわからないですものね。


原作 瀬田訳 仏語訳(発音) オババのコメント
Barliman Butterbur バーリマン・
バタバー
Prosper
Poiredebeurre
(プロスペール・ポワールドゥブレ)

苗字の最後の"e"にはアクサンテギュ(右上がりのアクセント記号) が付きます。
"poire"は「洋梨」、"beurre"は「バター(を塗った)」なので、 英訳しなおすと「バター(ド)ペアー」。
"Prosper"はフランス人の名前です。 かの「カルメン」の原作者がプロスペール・メリメ。 英語のイニシャルがゾロ目(B.B.)だから、Pで揃えてみたかった んじゃないかな。

[追記]
"Prosper"は人名としては普通ですが、 これは「繁盛、隆盛、好景気」という名詞 "prosperite"(2つの"e"の上には右上がりのアクサン=アクサンテギュが付く)に似ています。 英語の"prosperity"です。「躍る小馬亭」の繁盛ぶりからこの名前を使うことを思いついたのかもしれません。
また、"poire"には「とんま、だまされやすい人」という意味もあります。ふうむ、なるほど。
グワイヒアさんのサイトこちらをお読みになると、この訳がなかなかよく考えられたものであることがわかります。

Smeagol スメアゴル Smeagol
(スメアゴル)
"e"の上には原作同様、アクサンテギュが付きます。 アクサンテギュが付いていても、英語国民は「スミーゴル」と 読んでしまうらしいけれど、 フランス人は確実に「スメアゴル」と読みます。
Gollum ゴクリ Gollum
(ゴルム)
ピピンがグリシュナクに「ゴクリ」と喉を鳴らしてみせる場面を フランス人に読んでもらったら「よくわかる」ということでした。 フランス語にはこういう擬音語は無いけれど、喉を鳴らす音として 十分納得できるものなのだそうです。
フランス語の普通の単語の場合、語尾の"um"は「オム」と発音します。 でも、PJの映画のフランス語吹替版では「ゴルム」と言っていました。やっぱり「普通の単語」ではないからでしょうかね。。。
Black Riders 黒の乗り手 Cavaliers Noirs
(キャヴァリエ・ノワール)
これはそのまんまの仏訳なので、 わざわざここに載せるまでもないのですが、 あまりにもかっこいいのでご紹介。 古代の英雄伝説にぴったり♪
ちなみに、「白の乗り手」はCavalier Blanc(キャヴァリエ・ブラン)。
wraith / ringwraith 幽鬼 /
指輪の幽鬼
spectre
(スペクトル)/
Esprit
(エスプリ) /
Esprit Servant de l'Anneau
(エスプリ・セルヴァン・ドゥ・ラノー)

"spectre"は「亡霊、幽霊」の意味。 この単語が英語に入ると、イギリス英語では"spectre"のままだけど、 アメリカ英語だと"specter"になる。 同じ現象は"centre"にも見られます。 フランス語とイギリス英語は同じ綴りだけど、 アメリカ英語では"center"に変わる。
スペクターというと、オババはショーン・コネリーの007を 思い出します。なにしろ年寄りなもんで。(自爆)

一方、"Esprit"は 「イギリス人のユーモアとフランス人のエスプリ」なんて 言われる、あの「エスプリ」です。 「精神、才気」といった訳語を当てられることが多いのですが、 「霊、死霊」という意味もあるんです。 "servant"は動詞"servir"(奉仕する、仕える)の現在分詞からきた形容詞。 "chevalier servant"は「(中世の)貴婦人に仕える騎士」ですって。へえええ。(53へえ)
"l'anneau"は指輪です。念のため。

Saruman サルマン Saroumane
(サルーマーヌ)
ちょっとまったりしました。(^_^)
Sharkey シャーキー Sharcoux
(シャルクー)
映画にはついに登場しませんでしたね(T_T)・・・合掌。

フランス人は "Mickey"を「ミケ」と発音します。ネズミが猫になっちゃうわけ(^^)  だから、 "Sharkey"という綴りのままだったら「シャルケ」という発音になるはず。 では、どーして「シャルケ」ではいけないのか?  いろいろな可能性を考えて、 辞書を引きまくったのですが、 「シャルケ」 に似た音の、 別の単語があるというわけではなさそうだし、 "coux"という単語も存在しません。
というわけで、 「シャルクーの謎」は解明できませんでした。

Wormtongue 蛇の舌 Langue de Serpent
(ラング・ドゥ・セルパン)
TTTの蛇の舌、オババのお気に入りだったのに、 あれっきり再会できずに終わってしまいました (T_T) ・・・合掌。

"langue"は「舌」「言語」の両方の意味を持つという点で、 まさに"tongue"と同じ。 "serpent"は「蛇」。 というわけで、実にまっとうな訳語なので、 わざわざご紹介するまでもないのですが、一応ネタがあるのです。
「ラングドシャ」という、わりと薄手のクッキーがあるでしょう?  「シャ」は"chat"と書いて、「猫」。 つまりあれは「猫の舌」という意味なのです。 あのざらざら感が、まさに「猫の舌」なのでしょう。あ、「猫舌」とは関係無いということは、 日本人の皆様にはおわかりですね^^;

Strider 馳夫 Grands-Pas
(グラン・パ)
(実は このコーナー、これを書きたくて作ったようなものなのです。)
"grand"は"big"、"pas"は"step"。2つ合わせて 「大股」。
「グランパ」という音は"grand-papa"つまり「おじいちゃん」 のイメージに重なります。 アラゴルンの年齢はせいぜいホビットたちのおとうちゃんくらい なんですけどね。
でも、「ダサくて、王様の名前にしては貧弱だけど、 親しみと敬愛も感じられる呼び名」 という条件をすべてクリアしていると思いません?
shieldmaiden
盾持つ乙女 vierge guerriere
(ヴィエルジュ・ゲリエール)
「盾持つ乙女」という言葉はかっこいいですね♪
"vierge"は英語の"virgin"に相当します。 "guerriere"は 「戦争の」という意味の形容詞の女性形で、2番目の"e"の上には右下がりのアクセント記号=アクサン・グラーブが付きます。
英語は「名詞A(shield=盾)+名詞B(maiden=乙女)」という構造ですが、 名詞を重ねて新しい語を作るのは、ドイツ語をはじめとするゲルマン系の言語の得意技。 フランス語では、 英語の"of"に相当する"de"を使って「名詞B+de+名詞A」とするか、「名詞A」の部分を形容詞化しないと座りが悪いのです。

ちなみに、アラゴルンはエオウィンを、 原語では"lady"、瀬田訳では「姫よ」、フランス語では"Madame" と呼んでいます。これは驚くにはあたりません。「マドモワゼル(お嬢さん)」よりも、 「マダム(奥様)」のほうが格上なのですから。
フランスは大人中心の国。「女性は若いほどいい」などという考え方はありません。 ティーンエージャーの女性客に対して店員が「マダム」と呼びかけることも、ごく当たり前の風景なのです。 みの○んた氏に「お嬢さん」と言われてきゃ〜きゃ〜喜ぶオバサンたちを見るにつけ、 「ああ日本だなぁ」と思うオババです。。。

Shelob シェロブ Arachne
(アラクヌ)
英語にも "arachnid"(=クモ類) とか、 "arachnoid"(=クモ膜。この下が出血すると危ないのだ) という単語がありますが、 その語源が「アラクネ」。 ギリシャ神話に登場する、クモに変えられてしまった女性の名前です。 (ゆきみさん、ご教授ありがとう♪)
シェロブは 太古から存在する、由緒ある悪役。 その名前も由緒あるエルフ語かもしれないのに、 こんなふうに変えてしまっていいのか?
そこで
グワイヒアさんに"Shelob"の語源をうかが ったところ、 「"she"(=彼女)+"lob"(=古英語で『クモ』)」 とのこと。 だから、正しくは「シーロブ」と発音する、と。
なぁんだ、英語だったのか。
じゃあ、ギリシャ神話を拝借するのもオッケーですね。
oliphant oliphaunt じゅう oliphant
(オリファン)

「別に面白くもなんともないぞ」という声が聞こえてきそうですが・・・
英語の"elephant"の語源が"oliphant"なのだろうということは見当がつきます。 調べてみたら、 13世紀の英語では"olyfaunt"で、それは古仏語(古い仏の言葉じゃなくて、古い仏語ね)の"oliphant" に由来するそうです。(それはさらにラテン語、そしてギリシャ語にさかのぼる。)ふむふむ、やっぱり。

ここから先は脱線で、私の発見(というのはおこがましいけど)です。
フランス文学をかじった人なら絶対に知っている (けど、本当に読んだことがある人はほとんどいない)
「ローランの歌」という作品があります。 11〜12世紀に成立した、シャルルマーニュとその甥ローランをめぐる武勲詩で、 イギリスの「アーサー王と円卓の騎士」の兄弟分のようなものです。 なにしろ、国としてのイギリスもフランスも無かった時代ですからね。
ネタ本である「フランス文学の楽しみ」(篠沢秀夫著・PHP研究所)を引用します。

象牙の角笛を皇帝(=シャルルマーニュ)がローランに渡し、危ないときには吹けと言います。 こういうものは全部名前がついています。 いかにも中世らしく、品物に生命があるという考えです。これはキリスト教と関係のない古代宗教の名残でしょう。 角笛はオリファン(olifant)いう名前がついています。
おおお!!オリファン!!!
トールキンは、こういうことを全部知っていたんだろうし、「ローランの歌」も読んでたでしょうね。それも原語で。

さらに脱線になるけれど、「ローラン(Roland)」はイタリア語では「オルランド(Orlando)」になるのだそうです。 (ゆきみさん、ご教授ありがとう!) レゴラスやったオーリー君、ローランだったんだ。。。

伝記を読んだら「トールキンはフランス嫌いだった」と書いてありました。
ふと思いました。じゅうはゴンドールの敵方の動物ですよね。 だから、フランス起源の単語を使ったのかも。。。って深読みのしすぎ?

* * * * *

よくよく見直したら、原作では"oliphaunt"でした。 うーん、、、今まで考えたことが水の泡になってしまった。 。。(T_T)

* * * * * * * *

[追記]
オリファントに関する正確な蘊蓄はグワイヒアさんのサイトのこのコーナーの「じゅう」にあります。

Shadowfax 飛蔭 Gripoil
(グリポワル)

飛蔭ってかっこいい名前ですね。 ほんとうはこれを指輪用ハンドルネームはこれにしたかったくらいなのですが、 足が遅いのでやめました(涙)
初読の際、かっこよさにばかり気を取られていたため、色のことは意識しなかったのですが、 よくよく読むと、この馬は灰色なんですね。だから名前に「シャドー」がつくのでしょう。
フランス語訳はその意味を汲んでます。 "gri"は「灰色の」という意味の"gris"からきていて、 "poil"は「毛、毛色」の意味。つまんない。(>_<)

でも、映画の飛蔭は目の覚めるような白馬です。 とても美しくてステキなので、別に文句はないのですが、 それを「灰色の毛」と呼んでいるのを聞くのは、なんだか妙な気分でした。
フランスの字幕担当者も困惑したんじゃないかしら。 「おいおい、『灰色の毛』なのに白いじゃないか! いったいどうしたらいいんだ」って。 でも、原作のフランス語版愛読者のことを考えたら、 従来の訳を採用するしかなかったんでしょうね。

[追記]
どうやら映画の飛蔭も「灰色」のうちに 入るようです。 詳細は
このサイトへどうぞ。 「サイト案内」から「『指輪物語』と白い馬・灰色の馬」に飛べます。

Snowmane 雪の鬣 Nivacrin
(ニヴァクラン)

言わずと知れたセオデン王の愛馬。映画では名前が出てこないのが残念。
フランス語の「雪」は"neige"で、形容詞としては"neigeux"が一般的ですが、 ここでは学術用語"nival"(=雪の)に由来すると思われる"niva"を使っています。 "crin"はまさに「たてがみ」。

Treebeard 木の鬚 Sylvebarbe
(スィルヴバルブ)

"sylve"は「森」を意味する詩語。 英語では"silva(sylva)"で、形容詞は"silvan(sylvan)"となるので、 「森のエルフ」は原語で"Silvan Elves"なのだそうな。
むかーしむかし、オババの高校の先生がこんな話をしてくれました。
「特定の言語が世界共通語になってしまうと、その言葉を母国語にする人だけが有利になるだろう?  そういう不公平は良くないと考えたザメンホフという人が、エスペラント語という世界共通言語を作った。 エスペラント語の文法は簡単で、例外がないから、普通の外国語を覚えるより、ずっと楽なんだ。 でも、語彙はラテン語から取っていて、 たとえば、『森』は『シルバ』という。だから、やっぱり ヨーロッパの人のほうが覚えやすいんだよ。」
話は鮮烈に覚えているのに、どの先生が話してくれたのかはすっかり忘れちゃいました。 年はとりたくないものです。(;_;) 
"barbe"はあごひげのこと。

Quickbeam せっかち Vifsorbier
(ヴィフソルビエ)

映画では当然のごとくカットされてしまいましたね。。。

"beam"って、「光線」という意味だと思いこんでいたんですが、 念のために調べてみたら、 古英語で「木」の意味があるんですね。びっくり (@_@)
さて、フランス語のほうですが、"vif"は「はつらつとした、敏捷な、きびきびとした」。
"sorbier"は「ナナカマド」。 ・・・はて・・・?
慌てて「二つの塔」を読み直したら、 せっかち氏の故郷にはナナカマドがたくさんあったのでした。 わかりやすいんだわあ。

[追記]
"quickbeam"はそれ自体、「ナナカマド」という意味だったのです!  詳しくは
グワイヒアさんのサイトこちらへ。

Gwaihir
the
Windlord
風早彦
グワイヒア
Gwaihir le
Seigneur des
Vents
(グワイール・
ル・セニュール・
デ・ヴァン)

出番こそ少ないけれど、 重要な役割を果たしているこの人、もとい、鳥を忘れてはなりません。
"Gwaihir"の発音はオババの想像です。 フランス語では"h"は発音しないし、 「ボロミア」が「ボロミール」になるんだから、 たぶん「グワイール」だろうと。
"seigneur"は、イタリア語の「シニョール」、スペイン語の「セニョール」と 同語源。シニョールやセニョールは、男性名に付ける敬称(英語の「ミスター」)ですが、フランス語の"seigneur"だけはちょっと違う。(敬称は皆さんご存知の「ムッシュー」ですから) "seigneur"は英語の"lord"に相当するので、 "the Lord of the Rings"は"le Seigneur des Anneaux"となります。
"vents"は「風」を意味する"vent"の複数形。なんで複数なのかって? えーっと、抽象名詞を複数形で使うと、具体化・実体化するとかなんとか・・・。それ以上は訊かないで。(汗)

Fang,
Grip,
Wolf
きば、
くいつき、
おおかみ
Etau(エトー),
Croc(クロック),
Loup(ルー)

マゴットじいさんの3匹の愛犬の名前。
"etau"は「万力」、 "croc"は「犬の牙」、 "loup"は「狼」。
"grip"の「締め付ける」という意味合いから、「万力」という単語を採用したのでしょう。でも、どうして順番を変えたのかしら? "Croc, Etau, Loup"だと語呂が悪いのかなぁ。。。

それはそれとして、「クロック」で思い出されるのは「クロック・ムッシュー (croque-mousieur)」。ハムとチーズのホットサンド。フランスの軽食の定番メニューです。 "croque"は動詞"croquer"からきたもの。("croc"から派生した動詞なのでしょうね。)意味は「ポリポリかじる」。 だから、「クロック・ムッシュー」というのは「ムッシューをかじる」という意味なんです。 ちなみに、フランス語で「墓堀り人夫」のことを"croque-mort"といいます。クロック・モール。"mort"は「死人」。死人をポリポリ・・・きゃー恐いーー!!

「ルー大柴」の顔って狼っぽいかも?という冗談はさておき、 "loup"はラテン語"lupus"に由来します。 超ブームになった某シリーズに登場する「ルーピン (Lupin)」の名前はここからとられたというわけ。ちなみに、フランスが生んだ怪盗紳士・ルパンも"Lupin"ですが、これは狼とは無関係。正しい発音は「リュパン」。ってことは、フランスの少年少女はルーピン先生じゃなくてリュパン先生だと思って読んでるのかも。(あの映画のフランス語吹き替えはどうなってるのかしら・・・)
ついでに、スペイン語では「狼」は"lobo"、「ロボ」です。シートン動物記に「狼王ロボ」ってありました。あの名前、少なくともロボットとは関係ないと思うのよね(笑)

マゴットさんとその愛犬の名前については、グワイヒアさんのサイトこのコーナーの「マゴットさんち」をご覧下さい。


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