日本語の「○×山」は英語で
「Mount○×」であるのはご承知のとおり。
"mount"に相当するフランス語の単語は"mont(=モン)"。
ヨーロッパ最高峰のモンブランは"le mont Blanc"で、"blanc"は「白い」という形容詞なので、「白山」。
"le mont Saint-Michel"(モン・サン・ミッシェル)は「聖ミカエル山」。
"montagne"は英語の"mountain"に相当する語。
そう言えば、瀬田訳も「滅び『の』山」であって、「滅び山」ではないですね。
"du"は英語の"of"に相当する前置詞"de"と、男性名詞に付く定冠詞"le"が
一体化した形。
"destin"は「運命・宿命」。
英語だと"destiny"です。この単語を見て「♪You are my destiny♪」を思い出したあなたは、けっこうトシいってるはず(核爆)
問題は、"destin"には"doom"のような、不吉なイメージは無いということ。
フランス人に確認したところ、
"doom"にいくらか似ている「運命」という単語は"fatalite"(最後の e にアクサンテギュが付く)だけれど、"doom"の持つ暗黒のイメージとは違うそうです。
さて、ここからは「滅びの罅裂」。
日本語でも「クレバス」って言いますよね・・・と軽く片づけようとしたら、英語に"the crack of doom"という表現があることを発見しました。その意味は「最後の審判を告げる雷鳴」。
敬虔なカトリック信者であったトールキンが、この表現を軽々しく使ったはずがありません。
あのクライマックスの場面は、何も知らなくても十分感動的ですが、この表現を知っている人が英語で読んだ場合、さらに深い感動を味わえるのでしょうね。味わえる人が羨ましいです。
ちなみに、英語の"doomsday"(=最後の審判の下される日)に対応するフランス語は、"le jour du Jugement dernier"です。"le jour"が"the day"で、"le Jugement"が"the Judgement"、
"dernier"が"last"。"doom"に対応するフランス語の単語が存在しないことが、この事実からもうかがえます。
そもそも、"doom"という単語は
「アングロ・サクソン時代に法廷や民会で下された判決」というのが元来の意味だそうです。
"doombook"なんていう単語もあって、これは「旧ケルト、特に西サクソン王の法典」なんだそうです。
一口に旧ケルトとは言っても、広うござんす。フランスに住んでいたケルトの民はガリア人。よって、フランス語に"doom"という単語が入り込むことはなかったのでしょう・・・と思っていたら、がーーーん!!! 最初のフランス王家はサクソン系だったことがわかりました。。。
だから、"doom"がフランス語に入り込む可能性が、無かったわけじゃない・・・・。
・・・(気を取り直して→)でもとにかく、現代のフランス語には"doom"に相当する単語は無い。
よって、"Mount Doom"と"Crack of Doom"の仏語訳は、表面的なものにならざるを得なかったわけです。
蛇足ですが、「最後の審判」という言葉は聖書には出てきません。意外でしょ。後世になって作られた神学用語のようです。
"Crack of Doom"に関する深い考察はグワイヒアさんのサイトのこのページにあります。指輪ファン必読です。
Crack of Doom
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滅びの罅裂
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la Crevasse du Destin
(ラ・クルヴァス・デュ・デスタン)
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the Grey Havens
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灰色港
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les Havres Gris
(レ・アーヴル・グリ)
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「港」というから"harbor"かと思うと
大きな間違い。
"haven"なんです。
前者は「天然または人口の港湾」、
後者は「天然の港湾」で、「避難所・安息所」といった意味合いもあるのだそうです。
なんだかしみじみ。。。
よく、「タックス・ヘブン」という言葉を聞きます。「税金天国」と訳されているので、「ヘブン=heaven」と思いこんでいる人が多いけれど、正しくは「ヘイブン」つまり"haven"なんです。
お金を避難させるわけね。
おっと、フランス語の説明が遅くなりました。
"gris"は「灰色の」。フランス語では、形容詞はたいてい名詞の後につくんです。
"havre"はまさに"haven"と同じ。
河口にある天然の港のことで、避難所の意味もある。
この単語に定冠詞"le"を付けた
"le Havre"という港町が
あります。
フランスの「ザ・港」、それはセーヌの河口に位置するルアーヴル。もともとは「ルアーヴルなんたらこうたら」という名前だったそうです(←いい加減でごめんなさい)
[2004/9/18追記]
グワイヒアさんの
サイトのこのページに
港に関する考察があります。
必見。なぜ"haven"が複数形なのかもわかります。
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