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地名
ホビット庄  西四が一庄  ホビット村  袋小路屋敷  追分
風見が丘 裂け谷  闇の森  角笛城  療病院
 滅びの山  滅びの罅裂  灰色港

原作 瀬田訳 仏語訳(発音) オババのコメント
the Shire ホビット庄 la Comte (ラ・コンテ)

最後の"e"の上にはアクサンテギュが付きます。
これは本来「伯爵領」の意味で、英語のcountyに相当する語なので、 わりと素直な訳なのかな。
ただし、この単語、本来は男性名詞なので、 定冠詞を付けると"le Comte"(ル・コンテ)になるはず (男性名詞に付く定冠詞は"le"、 女性名詞に付く定冠詞は"la")。
翻訳者は わざわざ女性名詞にすることによって、 普通の"comte"とは違うというニュアンスをこめたかった のでしょう。

ちなみに、実際、フランス語で この名詞を女性名詞として使う例が一つだけあります。 それは「フランシュ・コンテ」という地方名。直訳すると 「自由な伯爵領」。 "franche"(フランシュ)は 形容詞"franc"の女性形。 場所は フランス東部、スイスのそば。 中心都市ブザンソンは、スタンダールの 「赤と黒」の舞台です。

Westfarthing 西四が一庄 le Quartier de l'Ouest (ル・キャルティエ・ドゥ・ルエスト) "quartier"は「地区」という意味。 パリの学生街「キャルティエ・ラタン(Quartier Latin)」は英語では"Latin Quarter"、つまり「ラテン(語)地区」。 中世のインテリはみんなラテン語がしゃべれたからです。 英語の"quarter"には「四分の一」という意味もありますよね、だから瀬田氏は「四が一」って訳したのでしょう・・・ と軽く済まそうと思って、最後に原作を確認したら・・・ "farthing"ですって!!! 何これ? 普通の辞書には「ファージング銅貨」としか書いてない!!!
泡くって語源辞典を調べたら
Used in biblical translation of L. quadrans "quarter of a denarius"
だそうで、 "denarius"=「古代ローマの銀貨」なので、「銀貨の四分の一」ということでした。
トールキンは、たぶん古臭い単語の中からこれを選んだのだと思うのですが、 フランス語訳したら、なんのことはない、実に日常卑近な単語になってしまったのでした。
こういうことを調べ出すと、瀬田訳ってほんとに工夫されているなあとつくづく思います。
Hobbiton ホビット村 Hobbitebourg (オビットブール) "bourg"は「大きな村」あるいは「小さな町」の意味。 どうやら市が立ったり、教会や役場が有ることがポイントらしいです。 イエス・キリストが生まれる数千年前の ホビット村に教会が有るはずないし、役場も無さそう(そもそもホビット庄には「政府」は無い) ですが、果たして市は?  映画では、市、立ってましたね。
ちなみに、「ブール」が付く地名としては、ストラスブールが有名。 フランスのアルザス地方の中心都市で、EU議会が置かれているところです。
ドイツ語では"burg"(ブルク)になります。意味は「(山)城」。 だからストラスブールのドイツ語名はシュトラスブルク。
英語だと"borough"になります。エジンバラの「バラ」です。 だからエジンバラのフランス語名は"Edimbourg"(エダンブール)。 "borough"は「城塞都市」という意味。 やっぱり英語はドイツ語に近いのね。
Bag End 袋小路屋敷 Cul-de-Sac (キュル・ドゥ・サック) 「袋小路」をフランス語にすると"cul-de-sac"。なんだ、まんまじゃん。というわけで、ここに掲載するまでもないと思ってました。 ところが話はそんなに単純じゃなかったのです。。。
「『袋小路』という意味で広く使われている英語は"cul-de-sac"。ところが、このフランス語臭い単語を、多くの英国人が喜々として使っていることに、フランス嫌いのトールキンは我慢がならなかった。だから、あえて"Bag End"という、生粋の英語を使ったのである。」
これは、トールキン専門家の方から直接伺ったのですから、間違いありません。
(英語の"bag"とフランス語の"sac"に対するトールキンの奇妙なこだわりは、
"Baggins""Sackville-Baggins"にも現れています。それをフランス語訳するのだから、話はさらにややこしくなるわけです)

そんなトールキンの思いを知ってか知らずか、フランス語訳ではまた"cul-de-sac"に戻ってしまったということなんです。しかも、 フランス語には「袋小路」を意味する単語として、"impasse"というのもあって、そちらのほうが使われる頻度は高い。なのに、なぜ"impasse"ではなく、"cul-de-sac"が採用されたのでしょう?
語源的には、 "impasse"は「passe=通る」に否定の接頭辞"-im"が付いたもの。つまり、単に「通れない」ということです。一方、"cul-de-sac"は「袋のお尻」という意味。お茶目でホビット的なほうを選んだのだろう、、、とオババは想像したのですが・・・
フランス人曰く、「この2つ語の間には、ニュアンスの違いは全く感じられない」と。がーん・・・。そこで、「袋小路に建っている家の固有名詞として使われているのだ」と説明したところ、「あっ!」と声をあげ、「袋小路の通路自体を指すのだったら"impasse"、突き当たりの部分だけを取り出して言うのだったら"cul-de-sac"のほうがふさわしい気がする」という答えが返ってきました。ほほう、 なーるほどー!
もっとも、単に「"bag"="sac"だから、"sac"が含まれる語を選んだ」ということに過ぎないのかもしれないんですけどね・・・。勝手に盛り上がっておいて、また勝手に盛り下がってゴメンナサイ。

Waymeet
(Waymoot)
追分 le Carrefour(ル・カルフール) ホビット庄の地図を見たとき、 なんと日本的な地名なんだろうと思ったのですが、グワイヒアさんここで解説してくださいました。
"moot"は"meet"の古い形なのですね。だから「エントの寄合」が"Entmoot"なんだ・・・
で、「追分」の仏訳を見て、あらら(@_@)
これって、「十字路、交差点」の意味の、ものすごい普通に使われる単語。「分かれ道、分岐」の意味もある。文句のつけようがないんですけど、あまりにも普通。

ところで、お気づきの方もおいででしょうが、「カルフール」と言えばフランスの大手スーパー。
オババのカルフールとの出会いは1989年、夏にフランスにお勉強しにいったときのこと。最初の授業のとき、先生が「日常の買い物ならカルフールに行けばなんでも揃いますよ」とおっしゃったのです。「交差点? 青空市でも立ってるの?」とオババの目は点になりました(^^;
カルフール幕張店、2回行っただけだけど、いい感じのお店でした。撤退しちゃって残念です。

Weather Hills/
Weathertop
風見丘陵/
風見が丘
les Collines du Temps(レ・コリーヌ・デュ・タン)/
le Mont Venteux (ル・モン・ヴァントゥー)
瀬田氏は"weather"を「風見」と訳したんですね。地名に「天気」はそぐわないから。 なるほど。。。
フランス語のほうはと言うと、"temps"は文字通り「天気」ですが、これは「時間」という意味もあって、むしろそちらの意味で使われることのほうが多いぐらい。英語の"time"です。(でも、「何時?」つまり"What time?"と言いたいときは、"temps"ではなくて、"hour"に相当する"heure"を使って"Quelle heure?"と言います。ややこしいわね。)  なので、"Collines du Temps"を再英訳すると"Time Hills"。「時間丘陵」というSFちっくな意味と取られかねないのではないかと、ちょっと心配になってしまいます。
あっ、だから「風見が丘」のほうは違う単語にしたのかな? "venteux"は英語の"windy"。 "mont"は「山」。「富士山」をフランス語で言うと 「モン・フジ」です。
"les"は複数名詞に付く定冠詞で、 "le"は男性単数名詞に付く定冠詞。
Rivendell 裂け谷 Fondcombe (フォンコンブ) "fond"は「奥、底」。"combe"は「谷、窪地」という意味の方言だそうです。(どこの方言だかは不明)
先日、"Atlas of Middle Earth"という本を見ていたら(持ってるわけじゃありません。本屋で立ち読みしたんです^^;)、 ブリー村の東の方に"combe"と書かれてました。あらまっと思って調べてみたら、 英語でもこの単語は「深い谷、峡谷」という意味なんですね。
で、裂け谷ですが、、、 うーん、、、"combe"の方はともかく、"fond"はつまんない気がします。「裂けた」というニュアンスがどこにもないし。
Mirkwood 闇の森 la Foret Noire (ラ・フォレ・ノワール) "la"は定冠詞。 "Foret"の"e"にはアクサン・スィルコンフレックス(^)が付いて、意味は「森」。 "Noire"は「黒い」。 だから"the Black Wood"・・・芸が無いぞ。。。
ちなみに、「黒い森」はドイツ語では「シュヴァルツヴァルト」。 ドイツ南西部に実在する森です。「闇の森」のドイツ語訳は何なのかな?  少なくともシュヴァルツヴァルトではないでしょうね。

ところで、かの原宿ラフォーレはこの"la Foret"です。 森ビルだから。

Hornburg 角笛城 Fort le Cor (フォール・ル・コール)

"fort"は「砦」、"le"は定冠詞、"cor"は「角笛」。 なかなか語呂がよろしい。花マルを差し上げましょう(爆)
実は、英語を見て焦ってしまったオババです。
「ホビット村」のところで、 「フランス語の"bourg"はドイツ語では"burg"、英語では"borough"です」などと、 偉そうに書いてしまったのですが、 英語にも"burg"という単語、有ったんですね・・・ 英語ってむじゅかしい。。 「堡塁(ほうるい)で固めた町」という意味だとか。 なんだ、「城塞都市(=borough)」と同じじゃないの。町の大きさが違うのかしら?

the Houses of Healing 療病院 les Maisons de Guerison (レ・メゾン・ドゥ・ゲリゾン)

私ことオババの職場でございます(笑)  映画ではカットされちゃったけれど、 まあしょうがないですわ。なにしろ時間が無いですからね(爆)
瀬田訳で「『療』病院」となっているだけあって、hospitalではないのです。 フランス語は忠実な訳。「ゾン」という音が韻を踏んでいる点は、英語よりいいかも? 
"guerison"の"e"の上にはアクサンテギュがつきます。この単語の動詞形は"guerir"(ゲリール)。オババがまだうら若い女学生だった頃、この単語を初めて知って 「げっ、下痢かよ」と思ったことを、今ここに告白いたします(自爆) それにしても "maison"(=家)がなにゆえに複数形になっているのかが、 大きな謎です。

ちなみに、「癒しの手」は "the hands of a healer"・・・ってことは、 直訳すると「癒し手の手」。 フランス語は"les mains d'un guerisseur"(レ・マン・ダン・ゲリスール)。
ところで「王の手は癒しの手」というのは、ヨーロッパでは古くから言われていたことなんですってね。 かのシャルルマーニュもそうだったらしい。。

Mount Doom 滅びの山 la Montagne du Destin (ラ・モンターニュ・デュ・デスタン)

日本語の「○×山」は英語で 「Mount○×」であるのはご承知のとおり。 "mount"に相当するフランス語の単語は"mont(=モン)"。 ヨーロッパ最高峰のモンブランは"le mont Blanc"で、"blanc"は「白い」という形容詞なので、「白山」。 "le mont Saint-Michel"(モン・サン・ミッシェル)は「聖ミカエル山」。
"montagne"は英語の"mountain"に相当する語。 そう言えば、瀬田訳も「滅び『の』山」であって、「滅び山」ではないですね。
"du"は英語の"of"に相当する前置詞"de"と、男性名詞に付く定冠詞"le"が 一体化した形。
"destin"は「運命・宿命」。 英語だと"destiny"です。この単語を見て「♪You are my destiny♪」を思い出したあなたは、けっこうトシいってるはず(核爆)
問題は、"destin"には"doom"のような、不吉なイメージは無いということ。 フランス人に確認したところ、 "doom"にいくらか似ている「運命」という単語は"fatalite"(最後の e にアクサンテギュが付く)だけれど、"doom"の持つ暗黒のイメージとは違うそうです。

さて、ここからは「滅びの罅裂」。

日本語でも「クレバス」って言いますよね・・・と軽く片づけようとしたら、英語に"the crack of doom"という表現があることを発見しました。その意味は「最後の審判を告げる雷鳴」。 敬虔なカトリック信者であったトールキンが、この表現を軽々しく使ったはずがありません。
あのクライマックスの場面は、何も知らなくても十分感動的ですが、この表現を知っている人が英語で読んだ場合、さらに深い感動を味わえるのでしょうね。味わえる人が羨ましいです。
ちなみに、英語の"doomsday"(=最後の審判の下される日)に対応するフランス語は、"le jour du Jugement dernier"です。"le jour"が"the day"で、"le Jugement"が"the Judgement"、 "dernier"が"last"。"doom"に対応するフランス語の単語が存在しないことが、この事実からもうかがえます。
そもそも、"doom"という単語は 「アングロ・サクソン時代に法廷や民会で下された判決」というのが元来の意味だそうです。 "doombook"なんていう単語もあって、これは「旧ケルト、特に西サクソン王の法典」なんだそうです。
一口に旧ケルトとは言っても、広うござんす。フランスに住んでいたケルトの民はガリア人。よって、フランス語に"doom"という単語が入り込むことはなかったのでしょう・・・と思っていたら、がーーーん!!! 最初のフランス王家はサクソン系だったことがわかりました。。。 だから、"doom"がフランス語に入り込む可能性が、無かったわけじゃない・・・・。
・・・(気を取り直して→)でもとにかく、現代のフランス語には"doom"に相当する単語は無い。
よって、"Mount Doom"と"Crack of Doom"の仏語訳は、表面的なものにならざるを得なかったわけです。

蛇足ですが、「最後の審判」という言葉は聖書には出てきません。意外でしょ。後世になって作られた神学用語のようです。

"Crack of Doom"に関する深い考察はグワイヒアさんのサイトこのページにあります。指輪ファン必読です。

Crack of Doom 滅びの罅裂 la Crevasse du Destin (ラ・クルヴァス・デュ・デスタン)
the Grey Havens 灰色港 les Havres Gris (レ・アーヴル・グリ) 「港」というから"harbor"かと思うと 大きな間違い。 "haven"なんです。 前者は「天然または人口の港湾」、 後者は「天然の港湾」で、「避難所・安息所」といった意味合いもあるのだそうです。 なんだかしみじみ。。。
よく、「タックス・ヘブン」という言葉を聞きます。「税金天国」と訳されているので、「ヘブン=heaven」と思いこんでいる人が多いけれど、正しくは「ヘイブン」つまり"haven"なんです。 お金を避難させるわけね。
おっと、フランス語の説明が遅くなりました。
"gris"は「灰色の」。フランス語では、形容詞はたいてい名詞の後につくんです。
"havre"はまさに"haven"と同じ。 河口にある天然の港のことで、避難所の意味もある。 この単語に定冠詞"le"を付けた "le Havre"という港町が あります。 フランスの「ザ・港」、それはセーヌの河口に位置するルアーヴル。もともとは「ルアーヴルなんたらこうたら」という名前だったそうです(←いい加減でごめんなさい)

[2004/9/18追記] グワイヒアさんの サイトこのページに 港に関する考察があります。 必見。なぜ"haven"が複数形なのかもわかります。


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