なんちゃってじゃないスメアゴル

この素晴らしいネタを提供してくださったのは、サグレスさんです。
サグレスさんの解説と手描きのイラストをじっくりお楽しみください。

サグレスさんの解説

2004年に行われた、海の生物に関する学会で、 なんと、「スメアゴル」という巻貝の一種についての発表がありました。

誰一人出典を知っている人がいないようで、笑い声すら起きなかったのですが、私は一人で笑いをこらえるのに必死でのたうっていました。 発表者が真面目な顔で「なんたらスメアゴル」とか「かんたらスメアゴル」について喋っているのを聞いていると、もう、可笑しくて死ぬかと思いました。

そしてつい先日、出張の折りに、その発表をした貝の分類の専門家と仕事をする機会に恵まれたのです。
この機を逃してなるものか!と、お昼ご飯の時に訊いてみたところ・・・

「スメアゴル」というのはニュージーランド(!)で発見された殻のない巻貝(ナメクジっぽいやつ)の一種で、岩の下の暗がりに棲み(!)、眼が退化 して(これは違いますね)、ぬるぬるしている(!)んだそうです。大きさは1センチほど。

1980年ごろに発見され、新目・新科・新属・新種ということ で、スメアゴル目・スメアゴル科・スメアゴル属のスメアゴルとして発表されましたが、その後他の目に併合されました(ナメクジと同じ目になったはず。
スメアゴル科・スメアゴル属などは今でも使っています)。現在はオーストラリアと日本(中国地方)でもスメアゴル属の別の種は発見されていますけれど、本 家本元のスメアゴルよりずっと小さく、分布域も限られていて、とても見つけにくい(!)種なのだそうです。

その話をしてくれた分類学者は、
「世界でもスメアゴル属を自力で発見できた人間は3人だけで、私はその1人!」
と嬉しそうに言っていました。
彼はそのスメアゴルを見つけたくて見つけたくて、10年も探し続けてやっと見つけたとのこと(「そういえば離れ山からいなくなったゴクリの探索にはえらく時間がかかったっけ」←私の脳内妄想)
最初、ニュージーランドやオーストラリアでしか見つかっていなかったので、大昔、大陸が移動する前のゴンドワナ大陸(今の南極・アフリカ・南米・オーストラリア・ニュージーランド・インドがくっついていた南方大陸)で進化したグループではないか、と言われていたのですが (「ヌメノールが覆る以前か!?」←脳内妄想)、日本でも見つかったことから、そうではないだろうと言われるようになったそうです。
「ひょっとして流木か何かにくっついて日本まで流れてきたってことはないかしら?」(脳内妄想暴走) と期待に満ちて訊ねたところ、「可能性は無くはないが、分からない」 とのことでした。

彼は「指輪物語」は未読、映画はオーストラリアで第一部だけ見て「何のことやら分からなかった」そうですが、スメアゴルがその登場人物であることだけは 一応知っていたそうです。
「重要な登場人物なんですか?」と訊かれたので、「ものすっっごく重要です!」と力を込めて答えておきました。

最初に命名した人や、今そのスメアゴルについてニュージーランドで研究している人も、当然のことながら「指輪物語」は読んでいて、学生への講義のためのパワーポイント原稿には、貝のスメアゴルの写真と並んで、「指輪物語」のスメアゴルの挿絵があるのです! それを研究室で見せてもらったとき、「おぉぉ、これはアラン・リーの挿絵!」と口走ってしまい、日本唯一のスメアゴル発見者に唖然とされました。貝ならほとんど見分けることの出来 る人なのですが、挿絵を見分ける人間は知り合いの中でいなかったらしいです。

で、実物の日本産スメアゴルの標本も見せてもらったのですが・・・、大きさは2mmほどの、白い小さなナメクジ風の生物でした。
言われなければ標本瓶の底に沈んだゴミと見紛うくらい。
こんなのが海岸の石の下に、誰にも知られることなくひっそりと、何百万年だか何千万年だか分かりませんが、世代を重ねていたんだなぁ・・・と思うと、なかなか感慨深いものがありました。

* * * * * *

[2010/1/5追記]
朗報です!
「日本近海産貝類図鑑」(奥谷喬司 編著、東海大学出版会)という大部の図鑑があります。
編纂に携わっているのは、日本の貝類をすべて網羅しようという情熱に燃えた貝類学専門家たちなのですが、このほど、この図鑑の版が改まるのと同時に、「スメアゴル科」が加わることになりました。
スメアゴル科の執筆担当者は、日本で初めてスメアゴルの仲間を発見した研究者で、 「指輪」ファンではないのだけれど、文学と翻訳と初出にきちんと敬意を払う人なので、「発音からすると『スミーゴル』なのではないか?」という異論に対し、「いや、これは日本でも非常に人気の高い文学作品の重要な登場人物であり、日本語訳では『スメアゴル』が定着しているし、検索をかけても『スメアゴル』の方が断然ヒット数が多い。従って表記は『スメアゴル』にすべきだ」と断固主張してくれたのだそうです。 感動・・・。
ということで、「スメアゴル」の名が、貝の図鑑に堂々と載ることになりました!
皆さんも、もしも機会があったら(めったに無いだろうけど)、ぜひこの図鑑を見てみてください!

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